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きっかけ
「橋本さ〜ん 下の名前って何ですか〜?」
突然背後から声をかけてきたのは2年後輩で、今は企画部の天然フワフワ系女子の中田麻衣だった。
思わずビクッと肩をすくめて振り向くと、彼女は小柄で華奢な体を落ち着き無く動かしながら、申し訳なさそうに私を見ている。
「びっくりしたぁ、麻衣ちゃんか〜」
私は、キーボードを打つ手を止めるとクルッと椅子を回転させ、体ごとむき直した。
彼女は入社当初、私の所属するデザイン部だったが、なんというか…上司も手を焼くほどの問題児…う〜ん、良く言えば天然すぎる天然?自由すぎてルールが守れないのだ。
そのため、厳しいと噂の企画部で鍛え直してもらうつもりで預けた結果、彼女はそこでイラストの才能を開花させ、そのまま企画部のメンバーとなった。そもそもオペレーター的要素の大きいうちの部署には合わなかったのかもしれない。
それにしても、なぜ彼女がわざわざ仕事中にもかかわらず、私の名前を尋ねに来たのだろう。っていうか先輩の名前ぐらい覚えとけよ!と突っ込みたいところだったが、私自身フルネームを言える先輩なんて数えるほどだと気づいた。
そんなことより私の名前だ。この子は私になんて興味がないはず。ならば誰かに頼まれたのか? 昨日の事があるから、なんとなく察しはつくけど…そう考えると、何だか簡単に教えるのは違うような気がした。
たかが名前、されど名前…
納得のいく理由が欲しくなった。
「ねぇ麻衣ちゃん、どうして私の名前が知りたいの?」
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