きっかけ

2/4
前へ
/387ページ
次へ
私の質問に対して彼女は、ちょっと斜め上を見ながら(これって言ってもいいのかな?)と考えるように右手の人差し指を顎にあて、漫画でしか見たことのないようなポーズをとると 「三上さんがぁ、橋本さんの下の名前を聞いてこいってぇ」 私は(はぁ、やっぱり三上さんかぁ)と心の中でため息をついた。そして少し鼻で笑うように「三上さんが? 私の名前を? なんで?」とまた質問をして意地悪してみた。 「だってぇ、聞いてこい、聞いてこいってうるさいんですよ〜」 答えになっていないが、しつこくお願いされことだけは分かった。こんなことに付き合わされている彼女が気の毒になった。 (教えてもいいけど、私の名前って「子」がつくから嫌なんだよね。響きも古くさいし…。かと言って、こんなことを理由に教えない訳にはいかないな) 「私の下の名前は多香子だよ」と伝える。 すると「さよこ?」と首をかしげるので、もう一度「た・か・こ」と丁寧に言い直した。とにかくこの子は聞き間違いが多い。 名前を聞けてホッとしたのか、満面の笑みを浮かべて「ありがとうございますぅ〜」とお礼を言うと、か細い手足をコキコキと動かしながら独特な走りで自分の部署へと戻って行った。 だけど部下を使ってこんなことするなんて…。
/387ページ

最初のコメントを投稿しよう!

404人が本棚に入れています
本棚に追加