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えき、えき、えき。
ネムには弟がいる。雑賀の里にいる、イチヤという名前の弟だ。里が違うのは複雑な事情あってのこと。――ぶっちゃけると、自分達は異母姉弟というやつなのだった。父の愛人の息子が弟のイチヤであり、よりにもよって雑賀の里の女性と関係を持ったせいでややこしいことになったのである。
けして、姉弟仲が悪いというわけではない。
ただ里同士の仲は、戦乱の世が終わって数百年過ぎた今でも良好とは言えず、行き来も自由できない状態が続いているのである。結果、彼と直接会って話ができる機会は稀だったのだった。時々来る手紙とメール、それからLINEに電話。最後に会ったのは――ネムが高校に上がる少し前だっただろうか。
「まあ、しょうがないんだけどさ。悪いのは、よりにもよってよその里の女に惚れて不倫なんかした馬鹿親父なわけだし」
はあ、とネムはため息をついた。
「親父が不倫しなきゃ弟は生まれてないってのがムカつく話だけど。……とにかく、そんなわけだからあたしとイチヤって、そう簡単に会える関係じゃないんだよな」
「なんか、ドロドロのサスペンスドラマ的なかんじだね……」
「あるいは、オトナ女性向けWEBマンガとかでありそうな?」
「……めっちゃ納得できちまった自分がむかつくわ」
現在、咲耶、シャオランと帰宅する途中である。ネムがちらちらと空を見上げるので、どうしたのかと二人が尋ねてきたのが話の契機だった。
「まあ、そのイチヤなんだけどさ。あいつ、伝令が得意なんだよ。文字を書いて、それを世界中に届けることができるというか。スマホもネットもある今の世の中だとそんなに役に立たないように思われるかもしれないけど、文字ってのはなかなか大事でさ。描いた文字を見せることで、特定の対象に忍術をかけることも可能というか。伝えたい相手の能力を強化したり、逆に弱体化させたり、幻に閉じ込めるようなこともできるんだと」
「それは凄い」
ネムの言葉に、ぱちぱちと拍手する咲耶。そして、話しが繋がったのだろう。何故、ネムがここのところやたらと空を気にするのか。
「そのイチヤくんから、何かメッセージが来るかもしれないから待ってるってかんじ?」
「まあ、そんなとこ」
ただ、とネムは眉をひそめる。
「ちょっと様子が変なんだよな。……あいつ、几帳面だからメッセージ送る時は必ず意図を説明してくれるんだけど、今回はそれがなかった。ただLINEで言われただけだ。“大事なメッセージを送るから、昼間はなるべく空を見ててくれ”って」
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