えき、えき、えき。

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 ***  不思議な出来事は、それからも繰り返されたのである。  家で、コンビニで、通学路で、学校で。空を気にして見上げていると、あの“えき”の文字が浮かび上がる。そして、ネムがその文字を見つめているといつのまにか一人で謎の無人駅に移動しているのだ。  現状、恐ろしいことは何も起きていない。ただ、駅の状況はゆっくりと変化し始めている。  二回目の移動で、電車が駅に到着した。  三回目の移動で、電車のドアが開いた。  四回目の移動で、そこから黒い人影が何人も降りてくるのが聞こえた。  五回目の移動で、アナウンスが聞こえた。電車に乗るようにと促された。  六回目。――訝しく思ってはいるものの、段々とネムは自分の足が勝手に立ち上がり、電車に向かって歩き始めたことに気付いた。電車の形状に、おかしなところはない。銀色とオレンジ色の塗装で、ややあちこちサビていて古ぼけたように見えるというだけ。中に、おかしなものが乗っている様子もない、ただ。 「次で七回目なんだけど」  ネムはコンビニで、コンガを含めた咲耶、シャオランに相談している最中である。 「勝手に体が電車に吸い寄せられてるってだけじゃないんだ。あたし、あの電車に乗りたくて仕方なくなってるんすよ。あれ、なんだと思います」 「嫌な予感しかしないな」  ネムの言葉に、コンガが険しい表情で言った。 「似たような怪異をいくつか知っている。……実は都市伝説とされているものの一部は、アヤカシや忍術が原因で起きていると言われているんだ。今回は、弟さんの忍術が怪しい。しかも、言いたくはないがイチヤくんは雑賀の忍者だ」 「弟が、あたしをハメようとしてるって言うんすか?」 「命令されて仕方なくってこともあるだろう。私だってこんなこと考えたくはないさ。けど、万が一君に何かあってからじゃ遅い。言いたいことはわかるだろう?」 「そうだけど……」  もし、あの空間も現象も弟の仕業なら。自分は逆らうべきではないのではないか、と思うのだ。彼が自分を殺そうとするなんてありえない。命令されたところで従うとも思えない。――正直、考えたくもない。  むしろ、何か危険が迫っていて、自分をどこかに避難させようとしている。そう考える方が自然だ。 「とにかく、電車には乗らないで」  コンガは険しい顔で言う。 「岩さんにも相談するから。……それで乗った方がいいって結論でるまで、ちょっと我慢してて。いいね、ネム?」 「……わかりました」  不満はあるが、仕方ない。  コンガは自分達の指導係で、一種親代わりでもある。彼が心配する気持ちも、わからないわけではないのだ。
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