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あれよあれよとしているうちに魔法学園に潜入捜査をする日がやって来た。
今のところ生徒たちに害はないみたいだが、こんなコソコソやるよりもさっさと捕まえた方がいいんじゃないですかね。
それをしたくないからこっちに話が回ってきてるんでしょうけど……。
「やっぱデカいな、魔法学園」
馬車を降り、私はそう呟く。
ただでさえ教室がある校舎が大きいのに、貴族の子息令嬢や王族が3年間住む寮や騎士志望の生徒が使う演習場があるせいで敷地が広すぎて迷子になりそうだ。
方向音痴では無いが、それは黒魔法のナビゲーションのお陰なので、道に迷う可能性は大いにある。
それにしても、黒魔法が使えないのは辛い。
授業は魔法道具から発動される白魔法しか使えないし、普段から使っている日常黒魔法も使わせてもらえない。
流石に不便過ぎる。
「取り敢えず教室まで行くか……」
荷物と部屋は既に上司が手配してくれているので、私は職員室へと急ぐ。
案の定迷いかけたが、他の編入生に着いていくことでちゃんと職員室に辿り着くことが出来た。
「君が1年生のAクラスに編入するカリナ・アライズさんだね」
名簿を持った教師に名前を呼ばれ、私はにこやかに微笑む。
「はい。カリナ・アライズです」
制服のスカートの端を掴み、英才教育の一環で叩き込まれた淑女の礼をする。
一応、私の身分は貴族なのでこのくらいは出来るが、言葉遣いは令嬢にしては汚いのでこれから苦労しそうだ。
あと、久しぶりに本名を使うので違和感が凄い。戸籍の用意が面倒とはいえ、偽名の方が良かった。
教師の後に続き、長い廊下を歩く。
魔法学園は1〜3年生に分かれており、その中で更にA〜Cクラスに分けられる。
実技と座学の結果を総評して優秀な順にA、B、C。
私が捕まえる黒魔法使いはAクラスにいるということで私も自動的にAクラスに組み込まれた。
勉強に関しての不安はないが、黒魔法使いをどう捕まえるかだけが悩みどころだ。
下手したら殺されるだろう。
「アライズさん、教室に入って」
考えているうちに教室に着いたようだ。
「はい」と返し、教室に足を踏み入れる。
(これはまた)
席に座っている面子と黒魔法使いの座っている場所を確認して、内心思い切り顔を顰める。
こりゃまたなんでこの席順なんだか。
「初めまして、カリナ・アライズです。これからよろしくお願いします」
しかし、そんなことは悟られないように表面上笑顔を保つ。
こんなの毎日やってたら表情筋死にそう……。
「では、アライズさんは空いてる席……サクノスさんの隣に座ってください」
「はい」
サクノスさん。
そう呼ばれた人物は私が返事をすると、分かりやすいように笑顔でヒラヒラと手を振っていた。
緑混じりの黒髪、特別目立つという訳では無いが、穏やかな雰囲気に整った顔立ち。
実に好青年という感じだ。
彼はユーリ・サクノス。
ターゲットの黒魔法使いだ。
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