第一章 潜入、接近、犯人と第二王子

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二日目。 特に何もなし。 三日目。 特に何もなし。 それが四日、五日と続き、気が付かば休日になっていた。 早めの時間に目が覚め、大きなため息をつきながらベッドからおり、身なりを整える。 こんなに進展がない仕事は今回が初めてだ。 潜入捜査自体は今まで何度か経験してきたが、何しろ相手が手強い。 もっとサクノスと仲良くなれればいいのだが、おそらく事情がある者同士無意識にお互い線を引いている。 つまり、警戒しているのは私だけでないということだ。 部屋を出て、長い廊下を歩いて学園の裏庭へと足を運ぶ。 こうなったらヤケクソだ。 学校に通ったのも実は初めてだし、普通にのんびりしてやる。 ベンチに座り、魔法で紙とペンを出したところで私はハッとした。 サインがされていない書類とペン。 これでは今から仕事する気満々の人ではないか。 (最悪だ。これじゃワーカホリックじゃないか) 魔法で書類とペンを消し、天を仰いでいれば、視界ににゅっと何かが入り込んできた。 その何かに私はぎょっとする。 「使い魔?」 フォルムはカラスのようだが、首に複雑な構造をした金属の首輪をしている。 これは使い魔契約をした時に魔法で作る首輪だ。 でも、一体誰の使い魔だ。 「あ、ちょ、くすぐったいって」 使い魔は気持ちよさそうに私に頬擦りをしてくる。 使い魔は基本的に黒魔法を使う者に懐きやすく、白魔法使いと契約していても見つけた瞬間に寄ってくるのだ。 魔法省でも白魔法使いの使い魔で黒魔法使いを探すのはよくある調査方法だ。 「にしたって、こんなに懐かれたのは今契約してる使い魔以来だな」 寄って来るとはいえ、こんなあからさまな愛情表現をされることはほとんどない。 あと、あんまりくっつかれるとうちの使い魔が浮気だ!と騒いで勝手に出てくるのでそろそろ離れて欲しい。 「アライズ嬢?」 「え、第二王子……殿下」 突然聞こえてきた声にびくりと肩が跳ねる。 やって来たのは、まさかの第二王子だった。 すっかり気を抜いていたので、慌てて令嬢モードに切り替える。 「この子は殿下の使い魔でしょうか」 「はい……申し訳ありません。お邪魔ですよね」 第二王子はどこか疲れた様子で使い魔に手を伸ばす。 しかし、使い魔はその手を羽ではたいた。 わお、なんて命知らずの使い魔なんだ。 不敬罪で捕まりたいのか??
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