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第一章 潜入、接近、犯人と第二王子
「魔法学園に潜入捜査ぁ?」
その日、国の中核である魔法省の一室に響いたのは間抜けな声だった。
発信源は自分だが、我ながら間抜けな声だ。
しかし、目の前にいる上司は突然何を言っているのだろうか。
「声がデカい。もし、学園関係者に聞かれてたらどうするんだ」
「どうするもこうするもそんなお坊ちゃんお嬢ちゃんの学園で何するんですか」
魔法学園は貴族しか通えない名門校である。
私たちが潜入捜査をするということは、危険を伴う仕事ということだ。
そんな危険なことを貴族の子息令嬢しかいないような学園で?正気か。
「魔法学校に黒魔術師が入り込んだらしい」
「へー」
「その心底興味無さそうな返事はやめろ」
上司は呆れたように額に手を当てるが、いつもの事ではないか。
それにしたって、黒魔術師ねぇ。
私、カリーナ・エスティバンはうなりながら腕を組む。
この世には魔法が二つある。それが白魔法と黒魔法。
大抵の人間は白魔法しか使えず、明かりをつけたり音楽を流したりと日常的なものならば平民貴族関係なく9割5分の人間が使える。
しかし、白魔法の中でも高度な魔法───攻撃魔法や治癒魔法などは基本的に血筋の問題で一部の貴族しか使えない。
そんな白魔法の扱い方を学ぶための施設、それが魔法学園だ。
白魔法使いと呼ばれるのは魔法学園を出た高度な魔法を扱える者のみで、これはとても名誉なこととされている。
逆に黒魔法使いは、数少ない黒魔法を使える人間の中でもそれを犯罪に使った者のみを指す言葉だ。
黒魔法は、一般的な魔法が高度な白魔法と同等の力を持っている。
そのうえ、平民と貴族のどちらにも生まれる。むしろ、人数が多い分平民に生まれる割合の方が多い。
そんな黒魔法を煙たがった貴族たちは黒魔法使いを犯罪者として結びつけ、白魔法こそ正義としているが、実際は黒魔法を使える者は子供の頃から魔法省に入れられ、英才教育を受けさせられた後は白魔法使いたちが解決出来ない問題を押し付けられる。
そんな私たちを貴族たちは灰魔法使いと呼び、白魔法使いは下手な態度を取ることが出来ない。
黒魔法使いたちは魔法省に捕まる前に逃げて教育を受けていない者たちがほとんどだ。
目の前にいる上司は疲れきった様子でいかにも書類仕事に忙殺されてますという感じだが、本職は魔法騎士であり、灰魔法使いを束ねる存在だ。
ちなみに、爵位も一番高い。
「ともかく、お前には来週から魔法学園の編入生として黒魔法使いを監視してもらう。ちょうど編入試験もあったし、紛れ込めば不審にも思われない」
「それはそうですね。で、黒魔法使いを探せばいいわけですね」
そのくらいは目星がつきそうなものだが、バックに大物でもいるのか?
それとも白魔法使いの捜査すらも掻い潜れるような手練の黒魔法使いなのか?
考えを巡らせていれば、上司は首を横に振った。
「いや、誰かはあらかた目星がついてる」
私は思わず何度か瞬きをする。
「え、待ってくださいよ。目星がついてるならさっさと捕まえればいいじゃないですか」
「それが出来たらさっさとやってる」
「つまり?」
「捕まえようとした白魔法使いが全員殺されてる」
「……はー、成程」
どうしてこの案件が灰魔法使いに回ってきたかが分かった。
というか、毎度毎度この展開だ。
お貴族さまである白魔法使いがそう簡単に死ぬわけにはいかないからね。
まあ、もう何人か殺されてるようだけど。
「しかも、今年は王太子殿下と第二王子殿下も在籍されている。学園側としても大っぴらにはしたくないんだろうな。プライドが高い奴らは学園の名前に傷が一つつくことすら嫌がる」
「アイツら面倒くさいですもんね」
「お前、それ学園で言うなよ?」
呆れながらも許してくれる上司は灰魔法使いになった時点で貴族のプライドなんてとっくに捨てているのだろう。
そういう職業だ、仕方ない。
上司は仕切り直すように咳払いをし、私に書類の束を押し付ける。
「お前の仕事は学園に潜入して秘密裏に黒魔法使いを捕まえることだ」
押し付けられた書類の束に私はため息をつく。
いつも通り、白魔法使いが解決出来なかった問題を押し付けられたようだ。
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