指環の精

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 指輪の精   彼方ひらく  仕舞い込んでいたコートのポケットに、男はイミテーションの指輪を見つけた。ほんの短い間、同棲していた古い恋人が置いていったものだった。  親指で撫でた途端、辺りが霧に包まれ、目の前に長い髪の女が立っていた。 「あなたの願いをなんでも三つ叶えましょう」 「そうか。なら、僕の恋人になってくれないか」 「一つ目の願いを叶えます」  それから男は女と暮らすようになった。食事を共にし、他愛もない会話をし、ときには旅行に出かけた。  だが、ときどき女は己の務めを全うしようとした。ベッドで寄り添っているとき、忘れた頃に、突然耳元でささやくのだ。 「二つ目の願いは?」 「そんなこと、もう二度と聞かないでくれ」  何十年か経った。  全てのものが古びていく中で、女だけが年をとらなかった。男は病で立ち上がることができなくなった日、女の手をとった。 「三つ目の願いがある」 「なあに」 「僕を君の指輪にしてほしい」  男の姿が消え、女の掌にひとつの指輪が残された。彼女はそれを、静かに薬指にはめた。
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