桂木瑞苑の祝福

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桂木瑞苑の祝福

 俺は、表向きは小さな会社で営業をしていた。表の仕事は何でも良かった。隠れ蓑にするだけだから。  裏では人殺しを依頼されてしていた。プロの殺し屋を営んでいた。  俺の殺した相手が五十を超える頃、加藤裕子に出会った。身長が高く目鼻立ちが整った誰もが見惚れる美人だった。  でも俺が惹かれたのは彼女の心だった。俺の話を熱心に聞いて、面白い話もしてくれた。俺は裏の仕事で疲れた時に彼女と話していると心が休まった。  しかし彼女は俺が裏で良くないことをしているのに勘づいたらしい。俺は彼女に全てを話してこちらの世界に引き込むこともできた。  でもそれは彼女を俗世間とは全く違う死を隣人とする世界に閉じ込めることだった。俺にはそんなことはできない。  彼女に幸せになって欲しい。彼女のことが好きだからこそ距離を取った。  彼女が会いたいと言う時にタイミングが悪く会えないことを伝えた。あくまでも自然を装って離れて行った。  彼女に幸せになってもらうために、彼女が好きになった男に好印象を与える画策をした。そのために裏の仕事で稼いだ金を湯水のように使った。  彼女からウェディングドレス姿の写真を送られて、感極まって涙を流した。俺が最も好きな人が幸せになってくれて良かった。こんなに嬉しいことはない。俺は彼女に祝福のメッセージを送った。  俺は裏世界に身を置く者。俺が女を幸せにできるわけがない。俺はいつ死んでも悔いはない。  たとえそれが今日でも。
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