加藤裕子の結婚

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加藤裕子の結婚

 私はあなたに会いたいとずっと願っていた。どうして彼は私と距離を置いたのだろう。  私が二十五歳の時に彼と知り合った。彼は容姿端麗で仕事ができる。  でも私が惹かれたのは彼の外見や性格ではなかった。彼の底知れない妖艶さが私の心を掻き乱した。  彼は、表向きは敏腕に営業の仕事をしている。でも裏では私が想像もつかないことをしているのではないだろうか。  本当の彼を知りたい。時折、見せる鋭い目付きに隠れた本性を知りたいと私は願うようになった。  しかし私が彼のことを好きになり、彼のことを深く探ろうとすると彼は距離を取るようになった。  露骨な拒否ではなく、あくまでも自然に、そうなるのが必然かのように私は避けられるようになった。彼は私と予定がすれ違うと申し訳ないと言いながら笑って誤魔化していた。  私が彼に距離を置かれるようになって、数年が経った。私は三十になり結婚を焦るようになった。  親からも結婚を勧められて彼のことは気になったけど、会社で同僚の人と結婚することにした。その人と知り合ってから結婚するまでは、神に導かれたかのように、とても順調に進んだ。  私は結婚すれば彼のことは忘れられると思っていた。でも結婚してその姿を見せたい相手は彼だった。私は彼にウェディングドレスを着た写真をメールで送った。  彼から「俺の人生の中で最も嬉しい写真だ」と返事が来た。
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