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僕の勤める、mirai-st.株式会社K支社には、魔法使いがいる。
総務部の山瀬寧々さん。彼女はポケットから何でも出せる、不思議なひとだ。
僕が彼女の力に気付いたのは、物流管理部に異動になった、この春からだ。
異動になる前──営業部にいた頃から、小動物的で可愛いひとがいるなあと思ってはいたけれど、話したこともないし、どんな人柄かも知らなかった。……異動が決まった時、ちょっとだけ「ついてる」って浮かれたのは、人事部には内緒だ。
物流管理部と総務部は同じフロアで業務を掛け持っているので、毎日顔を合わせるようになれば、彼女の仕事振りも人柄というものも、自然と知るところとなった。
彼女はとにかくよく気がつく人で、山瀬さんが出勤している間、備品の欠品や補充忘れが起きたことはない。
データ入力と管理も恐ろしく速く正確で、タイピングが苦手な僕などは、度々間違いを指摘された。
しかし人当たりは柔らかで、場をほんわりと和ませてくれる、癒し系の魅力を持ったひとだった。
「はい、仁平さん」
異動して一ヶ月もしないうちに、ロット数を間違え、絶望に打ちひしがれていた僕に差し出されたのは、珈琲味のキャンディーだった。
「ひと休みしましょう」
そう彼女は微笑んで、制服の上に羽織ったカーディガンのポケットをガサゴソ言わせると、僕の不始末の対応に追われる部長たちにも、飴を配り茶を汲んで、残業に付き合ってくれたのだ。
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