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その日から僕は、彼女から目が離せなくなった。
上からも下からも頼りにされ、親しみやすい雰囲気を醸す彼女は、「寧々さん」と名前で呼ばれることが多かった。
僕なんかは歳はそんなに違わないけれど、異動してきたばかりの新人だし、照れ臭いから「山瀬さん」としか呼べない。だけど寧々さん、という呼び方は耳に馴染んで、心の中では僕もそう呼んでいた。
気になって目で追ううちに気付いたことだが、寧々さんはいつもポケットのあるカーディガンを羽織っている。そしてそこから、ありとあらゆるものを出してみせるのだ。
たいていの社員は、胸ポケットにシャーペンとボールペンくらい入っていれば十分で、梱包材や結束バンドを切るカッターなんかは、デスクにある者がほとんどなのだが、寧々さんは違った。
すっと、ポケットから出された手にはカッターが握られていて、あっという間に封を切っていく。
ある時は、一緒に開封作業にあたろうとしていた小峯さんが、デスクまで刃物を取りに戻るのを止め、もう一度ポケットに手をやると、ハサミが出てきたこともあった。
他にも、寧々さんのポケットから出てくるものは様々だ。
油性マーカーに定規に消しゴム──さすがは(?)文具メーカー勤め、大方の文房具は網羅している。計算機と手帳が出てきたこともあるし、書類で手を切った子に絆創膏をあげていたこともある。
咳っぽい子にはのど飴、残業確定の子には栄養ドリンク。
寧々さんのポケットの中は、一体どうなっているんだろう。
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