それでも、スマホを見てしまう。

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「夏海?」  声をかけられて、僕は目を開けた。少し眠る事が出来たみたいだ。時計を見ると、午前十時になっていた。 「早かったね」 「ああ。お前は、珍しいな。この時間に寝てるなんて」 「……うん」 「土産にバウムクーヘンを買ってきたから、食おうと誘いに来た……んだけどな、なんか今日のお前、色っぽいな。目が潤んでる。溜まってんのか? 顔も赤い」 「その……」  いずれも熱のせいだろう。現在は熱が上がりきっているのか、寒気の代わりに、全身が熱い。 「……ごめん、劉生。今日はデキない」 「ん?」 「せっかくの水曜日だけど……ヤりたいなら、セフレに連絡して」  こんな事は言いたくなかった。でも、僕が出来ないのでは仕方がない。上手く働かない頭で、僕はそう結論付けた。泣きそうだった。熱のせいか、関節痛がして、全身が痛む。この状態で抱かれるのは無理だ。それ以前に、風邪が劉生に移ってしまう。 「出てって」 「どういう意味だよ? ここは俺とお前の寝室だろ?」 「セフレのとこに泊ってきて」 「は?」 「お願い。今日はダメ」 「――浮気でもしたのか?」 「違うよ……僕、風邪を引いてるから、劉生に移っちゃうから……」 「え?」  僕の言葉に、チラリと劉生がベッドサイドを見た。そして体温計を手に取り、それから風邪薬の瓶を見たのが分かった。僕はその時咳き込んでしまった。慌てて口を手で押さえる。 「お願い、劉生。移っちゃうから」 「何言ってんだよ。今、何度だ?」 「わかんない」 「はかれ」  劉生がそう言って、僕に体温計を渡した。頷いて、僕は素直に体温をはかる。  暫くして体温計が音を立てた。見ると、四十度もあった。 「何度だった? よこせ、見せてみろ」  僕の手から、劉生が体温計を奪った。そして息を呑んで目を見開いた。 「お前、なんだよこの熱は? いつからだ?」 「っ……月曜日くらい。咳とかは先週だけど、劉生はいなかったから、まだ移ってないと思う。とにかく、出ていって」 「なんで言わなかったんだよ?」 「……浮気してるところに連絡なんて、辛くて出来ないよ……それに、出張の時は、仕事の邪魔になると思って……」 「あのな? 熱があるのに、そんな事を言ってる場合じゃないだろ? 何を考えてるんだよ?」 「劉生の事しか考えてないよ。とにかく、劉生に移ったら辛いから。出ていって」
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