それでも、スマホを見てしまう。

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 行為後、僕がシャワーから出てくると、先に入っていた劉生が、着替えを済ませていた。今日は土曜日だ。証券会社に勤めている劉生は、基本的には土日がお休みだ。 「何処に行くの?」 「ちょっと買い物だ。いい子で待ってろよ?」 「う、うん!」  僕が頷くと、二ッと笑ってから、革靴を履いて劉生が出かけていった。  見送ってから、僕は時計を見る。現在、午後の四時だ。夕食を作って待っていよう。そう考えて、僕はキッチンに立った。今日のメニューは何がいいかな? 劉生の好きな蟹クリームコロッケを作ろうかな? 帰ってきたらすぐに揚げられるようにしておいて……と、考えながら準備をした。それらが終わり一段落してから、僕はダイニングのテーブルに座っていた。そして――八時、十一時、日付が変わる、二時……時計の針がぐるぐるとまわっていくが、劉生は帰ってこない。僕は、両手の指を組んで、俯いた。唇を噛む。 「ただいま」  劉生が帰ってきたのは、日曜日のお昼の十一時過ぎの事だった。  僕は唇を噛みながら、その声を聞いた。一睡も出来なかった。 「おかえり」  ダイニングに顔を出した劉生に対し、僕が小声で言った。そして窺うように劉生を見る。 「買い物じゃなかったの?」 「あー……」 「何処に行ってたの……?」 「別に。ちょっとな」 「……ねぇ、教えてよ。何処に行ってたの?」 「しつこい。シャワー浴びてくる」  劉生はそう言うと、コートを椅子に放り投げてから、浴室に消えた。僕はコートを壁に掛けようと思い、そちらへ向かう。そして息を呑んだ。香水の匂いに泣きそうになった。劉生の愛用しているものとは全然違う香りだ。震える指先で、ポケットの中を確認すると、香りの発生源であるハンドタオルが入っていて、その間から名刺が床に落ちた。拾ってみると、裏面にはトークアプリのIDが手書きで記されていて、表面にはアパレルショップの社員である事を示す名前と肩書があった。劉生がよく行くメンズ服のお店の名前だ。実際に買い物には行ったのかもしれないが、買い物袋も無い。きっと、この店長を劉生はお持ち帰りしたのだろう。なにせ、ポケットからは、ほかにラブホの名前が入ったライターが出てきた。劉生は普段煙草を吸わない。吸うのは情事後だけだ。
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