それでも、スマホを見てしまう。

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 呆然と僕は、名刺とライターを掌に載せ、もう一方の手ではハンドタオルをテーブルに置いていた。そこへ、劉生が出てきた。 「あー、また勝手に人のものを見る」 「……ご、ごめん」 「本当だよ。勝手にいじるな」 「だけど……劉生、これ、どういう事?」  僕は泣きたい心地で、劉生を見た。まだ濡れた髪をしている劉生は、片目だけを細くすると、僕の横に立った。 「何って?」 「これ……ホテルのライターだよね?」 「だから?」 「だから、って……ねぇ、なんで? 誰と行ったの?」 「――名刺もあるし、見ればわかるだろ」 「っ」  劉生は否定しなかった。今度こそ、僕は涙ぐんだ。 「また浮気したの?」 「だから、見れば分かるだろ?」 「なんで? ねぇ、なんで?」 「別に?」 「やめてって言った。先週も、先々週も、やめてって僕は言った!」  僕達は、確かに同棲している恋人同士だ。でも、劉生の朝帰りは止まらない。  劉生が浮気をするようになったのは、社会人になってすぐだ。僕が上司の相談をするようになったら、時々冷たい顔をするようになって、それが始まりだった。最初は、『付き合いの飲み会で遅くなる』と言って、待ち合わせに遅れるようになった。それが三度ほど続いて、僕は劉生の体を心配した。すると劉生が、心配するなって言って僕の頭を撫でてくれて、それから暫くは、そういう事は無くなった。その後僕がパワハラとセクハラで本格的に疲弊し、精神的に脆くなっていた頃は、どうだったのかは知らない。僕にも余裕がなくて、把握しきれていない。次に気が付いたのは、同棲開始後だった。この時も最初は、『今週は飲み会がある』として、劉生は朝帰りをした。終電を逃したと話していた。でもその頻度があまりにも多すぎて、そうしてある日、僕は今日と同じように、違う香水の匂いに気が付いた。そして思わず、劉生のスマホを勝手に見た。そこにはいくつかのメッセージがきていて、いずれも『次はいつ会える?』と書かれていた。僕が目を見開いた瞬間で、この時僕は、劉生に多数のセフレがいる事を、初めて知った。顔面蒼白で、僕は劉生に尋ねた。 「浮気してるの?」 「お前勝手に人のスマホを見るってどうなんだよ? 恋人だからってそんな権利は無いだろ」 「ごめん。で、でも、これって……」
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