96人が本棚に入れています
本棚に追加
笑いながらそんな事を言う劉生を、僕は睨んだ。しかし劉生の瞳は、まるで僕を抱く時のように、どこか獰猛に煌めいているし、口元には笑みが浮かんでいる。
――?
表情の意味が分からない。
「泣いてるお前を見ると、俺への愛を感じるんだよ」
「……は?」
「愛されてるんだなぁ、俺って思う」
「な、何を言って……?」
「どんなに浮気しても、傷つけられても、お前、俺の事大好きだもんな?」
「っ、そ、それは……そうだけど……」
「嫉妬して泣くお前を見てると、キュンとするんだよな。それに俺、夏海の泣き顔も好きだしな、これは元から」
唖然として、僕は目を見開いた。
何を言われたのか、当初意味が分からなかった。じっくりと、脳裏で劉生の言葉を反芻してみる。そして、結果として、さらに号泣した。
「そんなの僕にはどうしようもない。ねぇ、そんな事言わないで、もう浮気はやめてよ!」
「普段の夏海、俺への愛が足りないんだよ。夏海の愛が足りないのが悪い」
「っ」
「俺に浮気をやめさせたいんなら、もっと俺を愛せよ」
「な……ぼ、僕は劉生が好きだよ! 僕は浮気なんかしないし……劉生を愛してる!」
「そうだよな? 夏海は一途だし、浮気なんかしないもんな?」
「当然だよ。だから、劉生も――」
「お前がしないからって、俺もしないという話になるわけが無いだろ? 俺とお前は別だ。夏海は浮気したら許さないからな? でも、俺は約束なんかしない」
劉生はそう言うと僕を抱きしめた。その温もりは優しい。
僕の耳の後ろを擽りながら、劉生が笑み交じりの声で続けた。
「夏海の愛が足りないのが悪い」
「……劉生。僕は、どうしたらいいの? 僕にどうしろっていうの? 僕は何をすればいいの?」
「俺の事が好きか? 好きだよな。知ってる」
「大好き」
「じゃ、とりあえずベッド行くか」
こうしてその後、僕は劉生に抱かれた。浮気をした後、必ずと言っていいほど、それが露見すると劉生は僕を抱く。そして有耶無耶にしてしまう。優しく抱かれると、僕は何も言えなくなってしまう。ベッドの上で、好きだと言ってもらった時、僕は劉生が少しは僕を好きらしいと確かに感じるし、それだけでも胸が満たされてしまうからだ。
そうなると、事後になっても、僕はもう糾弾できなくなる。
最初のコメントを投稿しよう!