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この日もそうで、ひと眠りしてから日曜の夜、僕は昨日予定していた蟹クリームコロッケを作った。
「すごい、美味い。夏海、ますます料理が上手くなったな」
「ありがとう」
笑顔の劉生に褒められて、僕もまた微笑んだ。
劉生はお気に入りの茶碗を片手に、僕を見る。なんでも黒猫の模様が入った洒落たそのお茶碗は、劉生の亡くなったお姉さんの形見らしい。劉生は三人姉弟だったそうだが、今はお姉さんは一人きりで、二番目だったお姉さんは交通事故で亡くなったそうだ。劉生が大学進学にあわせて一人暮らしを始める事になった際、その亡くなった方のお姉さんが、このお茶碗をくれたのだという。とても大切にしているのを、僕は知っている。事故で亡くなった事は本当に悲しい。時折思い出話を聞くと、僕も挨拶出来たら良かったのにと感じてしまう。ちなみにもう一人のお姉さんには、紹介をしてもらった。きちんと『恋人だ』と話してもらった。三人でご飯を食べたのだ。劉生の実家は、あまり性別にはこだわらないらしい。ちなみに僕の両親は、離婚していて、僕は母に引き取られた。そしてその母は僕が大学四年生の時に病気で亡くなったので、僕は天涯孤独に近い。だから家族がいる劉生がちょっとだけ羨ましくもある。
僕には、劉生しかいない。でも、劉生にはきちんと家族がいる。家族だけじゃない。僕は劉生のほかには、本当に誰もいない。今は会社の関係は全て縁が切れているし、大学時代もほとんど劉生と一緒だったから友達がいなかった。なお、劉生にはいっぱいいた。そして高校までの友達は、離婚前の父の実家付近に住んでいるから、非常に遠方でほとんど会えない。連絡も取っていない。だから、僕には、誰もいない。劉生しかいない。
――その後も、劉生の浮気は続いた。その度に、気づくと僕は号泣した。僕は泣きながら劉生の服を掴み、何度も懇願した。
「ねぇお願いだから、頼むから、もう浮気しないで」
「やだね」
「なんでだよ、頼んでるだろ、お願いだから!」
「前に理由は教えてやっただろ?」
「っ」
何度も泣き明かした。それでも劉生は、朝帰りを繰り返す。僕は眠れなくなった。劉生がいない夜は、一睡も出来ない。
それでも、毎週水曜日には、少しだけ気分が浮上する。
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