それでも、スマホを見てしまう。

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 水曜日は決まって、劉生が早めに帰ってきて、僕を抱くからだ。本日も、劉生は早く帰ってきた。今もリビングにいる。僕は食後の洗い物をしながら、テレビを見ている劉生に振り返った。劉生はサッカーが好きだ。僕も好きだ。僕は観戦専門だが、劉生は高校時代まではサッカー部だったらしい。何度か二人で、試合を見にスタジアムへと足を運んだこともある。数少ないデートの記憶だ。劉生は、僕が一人で外に出ると、あまりいい顔をしない。だから僕は、買い物もネットのスーパーで済ませる事が多い。僕が出かけるのは、劉生と二人の時だ。でも二人でじっくりと出かけられる週末は、劉生は浮気ばっかりしているのが現実だ。僕はこのマンションに一人取り残されている。でも、劉生がいてくれれば、本当にそれでいい。僕は劉生に嫌われたくない。だから劉生の好みのように生きていくつもりだ。  ――パリン、と。  考え事をしていたせいで、僕の泡まみれの手から、食器が落下して、流しで割れた。慌てて視線を向け、僕は息を呑む。 「あ」  冷や汗が浮かんできた。慌てて手を伸ばす。それは、劉生が亡くなったお姉さんから貰った茶碗だったからだ。 「っく」  結果、右手の掌を破片が抉った。どくどくと血が流れ始め、泡が赤く染まっていく。傷にしみて痛んだが、そんな事よりも、僕は大切な茶碗がまっぷたつになっている現実に、足元が崩れ落ちたような感覚を味わった。 「夏海? 今の音は?」  劉生が立ち上がった気配がした。僕はどうしていいのか分からなくなった。涙ぐんで、オロオロとするしかない。キッチンへとやってきた劉生が、僕へと歩み寄る。 「っ」  そして硬直している僕の後ろから流しを覗き込み、あからさまに息を呑んだ。茶碗を見たのだろう。僕は震えながら、涙を浮かべて振り返った。そして長身の劉生を見上げる。 「ごめん……ご、ごめんなさい……」 「なにしてんだよ」  地を這うような低い声音。僕は委縮し、涙をポロリと零した。嫌われてしまったのだろうと確信し、胸が締め付けられるようになった。なにより、大切な思い出を壊してしまった自分が不甲斐ない。 「ごめん、ごめん……謝っても、その……」 「何に対して謝ってんだよ? さっさと手を流して、こっちに来い」
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