第十一章 夜が静かになる

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「勘助は二枚目で絵になる。でも、讃多は太陽だな。輝いていて、笑っている」 「そうだね。この土地は大変だったろうけど、それも笑い話に変えてしまう力が、讃多にはあるよ」  都夢の家では、誰が一番長いミミズを見つけるかで競っているシーンがある。全員が本気なので、途中から笑ってしまった。そして、ミミズの長さに驚いた。そして、最後にミミズは鶏の餌になり、優勝者には巨大唐揚げが贈られた。  この土地では、ミミズも巨大で太いので、蛇と間違ってしまいそうだ。  そして優勝したのは、寡黙に傍観していた勘助だった。そして唐揚げで、ビールを飲む姿が良かった。ビールのジョッキほどの唐揚げを、豪快に勘助が食べるのだ。 「そうか、いい夫婦なのか……」 「そうだね。いい友人だったのかもしれないよ。でも、時は二人を結び付けた」  動画では、友人としか映っていないが、喧嘩をするのも笑って見ていられるような、安心感がある。それは、互いに大切にし、思い合っているからだろう。  そして、都夢の家の農園は広がってゆき、周囲一帯が畑になってゆく。更に、日々、収穫し食べる事が出来るようになる。平行して、真子と息子の佳介が越してきて、真子は保存食作りの動画を配信し始める。そして、加工した野菜を売っていた。  更に、花梨の手芸動画も始まり、草で編んだバッグが人気になった。 「夢みたいな世界で、おとぎの国みたいだ」 「……でも、憧れるよ」  ただ生活しているだけの光景なのだが、自然に囲まれているせいなのか、おとぎ話のように感じる。 「どうして人は、自然の中で生活する事に憧れるけれど、実行はしないのだろう」 「都会は人が作ったものだよ。だから人の世界。でも、自然は人を排他する世界だよ」  まあ、現実は不便だと知っているので、楽な生活を選んでしまうのだ。  夢みたいな世界は、本当は大変で苦しい世界なのだと、気付いてしまっているのだろう。  しかしそれでも、野菜の一つ一つに、一喜一憂し、曇りなく笑う讃多が羨ましく、それを傍で見ている勘助にも同感するのだ。人は生きているから人であり、楽しむために生きている。その楽しみは、食べる事でもあり、美味しい作物を育て、喜び分かち合う事でもある。 
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