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「素直に連れて行ってくださいとか言えないのですか?」
「言いたくない」
そもそも、俺は大人で、サルの姿をしていなければ、自分で行ける。しかし、このサルの姿は、とても体力を消耗し、かつ眠くなる。だから、自由に動く事が出来ない。
「何で、言えないのですか?」
「悔しいからだ」
でも、道原は笑って、モフモフ百回と、一緒に眠る権利を主張してきた。
「夏目さんを枕に置いて眠るのは至福ですよ。生きたモフモフ。見た目も手触りも最高のモフモフ。でも、少し臭いので、風呂に入れると、とっても怒る」
「臭いと言うな!」
全身に毛があるので、乾かすのが大変なのだ。だから、ついつい風呂に入らない日々が続く。風呂場に脱水機でも作ろうかと思ったが、目が回りそうなので止めた。
「風呂に入れると眠る。沈んで慌てて起きて、又眠る。手を添えると、手の上で眠る。至福!!!」
「つくづく、残念な趣味だ」
だが、道原の話を、珠緒が目を輝かせて聞いていた。この場合の目が輝くは比喩ではなく、本当に輝いている。まるで、目からビームが出ているようで、これはこれで怖い。
「道原君。夏目ちゃんをお風呂に入れているの?!!」
「主に洗って乾かしています」
洗濯物のように言わないで欲しい。
「夏目さん、露天風呂が好きで。自分で作ったのですが、野生のサルと交じって入るので、よく攫われます」
「違う!」
攫われたのではない。穴場の温泉情報を貰ったので、一緒に行っただけだ
。
「友達になっただけだ」
「野生のサルと仲間にならないでください!」
そして、濡れたまま動いたので、毛が絡まってしまった。そこで道原は、帰って来た俺をブラッシングすると、丁寧に洗い直した。
「いろんな植物の種とか、虫とかを付けて歩き回らないでください!」
「それが自然の摂理だ」
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