第十章 都夢の家 五

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 そうやって、植物は他の場所に移動するのだ。だが、部屋を汚したのは確かなので、素直に謝っておこう。 「夏目さん……」 「ごめんなさい」  それと、ブラッシングはとても気持ちが良かった。 「西海さんが、夏目さんは目を離すと、ロクな事をしないとアドバイスしてゆきました。だから、リードも用意しています」 「必要なし!」  誰も、サル語が分かったのかと、指摘してくれないのも寂しい。そして、サルに教えて貰った温泉を今も使用している。 「いいなあ……夏目ちゃんを飼いたいな……」 「俺は、ペットではない!」  だが、珠緒はまだ目を輝かせていて、こんな珠緒を見るのは、英トも初めてらしい。 「映像に残しておこう」 「英ト、カメラ何台ある?」  部屋中のカメラが、珠緒に向いていた。 「珠緒の映像が撮れるならば、カメラを一万台くらい用意したい」 「狂っているな」  でも、好きなものを残しておきたいという気持ちは分かった。  過去の出来事は、忘れたくないと思っていても、幻みたいに薄れてゆく。そして、当時の感触や温度、匂いなどは記憶から消えていってしまう。せめて映像だけでも残っていれば、それをヒントにして、もっと蘇る記憶もあるのだろう。 「道原、都夢の家に行く」 「準備します」  もう道原の母親、未久は車を貸さないと言っていた。だから、道原が車の準備に手間取っている。 「英ト、ミニバン四駆が一台欲しい」 「夏目の資産ならば、容易に買えるだろ?」  だが、俺は小遣い制で、地下社会の資産は山科が管理している。その小遣では、車の購入金額になるまで数年かかる。そして、この姿ではローンも組めない。
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