第十章 都夢の家 五

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「夏目、本村さんが、裏社会の犯罪者を一斉検挙した。裏社会では、本村さんを本気で恨み、敵視し始めた」  裏社会は、通常社会の法律が生きている。だから、犯罪者の巣窟にならないように、周期的に取り締まりがある。でも、一斉検挙は今までには無かった。 「でも、本村さんは、経済界どころか、世界的にも、政治的にも有力な一族だ。裏社会も迂闊には手を出せない……だが、このままでは、どちらかが潰れる」  本村が、俺が殺されたくらいで、理性を無くすとは思えない。そもそも、俺は潜入捜査官だったので、いつ死んでもおかしくない生活をしていた。その後は公安に入ったが、そこでも生死は隣り合わせだった。 「夏目、一度、本村さんと会って話したらどうだ?俺が連絡するよ。状況も、少しは説明できる」 「…………」  自分で連絡できると言いたいが、本村が信じてくれるかどうか分からない。 「珠緒ちゃんを連れて行け、そういう事か?」 「そういう事だ」  英トも、本村の事を持ち出すなど、かなり狡い。でも、そうしないと、俺が意思を曲げるとは思えなかったのだろう。そして、それは正解だ。 「西海を呼ぶ。それと、日鋼丸に頼む」 「旅行代金は支払うよ……」  西海と日鋼丸がいれば、少しはマシだ。それに日鋼丸は表には出ないので、邪魔にもならない。 「行っていいの?」 「いいよ」  珠緒が笑ったので、英トがやっと気力を取り戻していた。  俺も、やはり珠緒には笑っていて欲しい。少なくとも、目が開いていないと、顔の位置や前後が分からないので困る。 「食料は多めに用意します」  怒るだろうが、西海に連絡しよう。
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