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カミエルside
次目を覚ますとまた知らない所にいた。でも、あの不快な香りはしなくて、薄い百合の香りがした。
「あ、カミエル起きたぁ」
うだうだと布団から起き上がらずにいればラクルーがそう言って笑った。外はもう陽が沈んでいる。ラクルーは部屋を出てそっちで誰かと話している。
全部記憶はある。医務室で暴れた事も、ナナミが俺の所に来て誘惑して来たのも、必死になってクロにしがみついたのも。
「はー…」
俺は布団から体を起こしてぎゅ、と布団を握った。主人公はどう言うつもりなんだ、何故俺に構う?俺は腕に巻かれた包帯を見ながら欲情に満ちた顔をしたナナミを思い出した。
「カミュ、起きた?」
「!あ、うん」
クロが部屋に入って来た。俺は心に安堵を覚えながらこくりと頷く。
「怖かったね」
ぎゅ、と抱きしめられて俺は一気に幸福感を得た。
「俺、耐えたんだ。噛まない様に」
「偉い」
よしよしと撫でられるその感覚に酔いながら俺は笑った。
「マグラムは教師が処遇を決めるけど、Ωだからって言う理由で被害者に回されやすい。1週間の謹慎くらいだろう。一応俺からも言うけど…」
「……うん、平気。みんないるし」
「………みんな。…そうだね。」
次の日登校すれば周りから遠巻きに見られる。まあそれもそうか。俺だって第三者だったら遠巻きにする。
教室に入って席に座れば、がばっと誰かに抱きつかれた。
「おはようカミュ!!」
マリルだ。なんだか、ちょっとホッとした。
「はよ」
「昨日は大変だったみたいだな。体は大丈夫か?」
「…俺よりΩの心配した方がいいんじゃない?」
今の言い方はちょっと悪かったかな、なんて思いながら俺は外を見た。
「何言ってるんだカミュ!普通よく知らん迷惑かけた女より友達を心配するだろ。」
ガッと俺の頬を掴んでマリルの方を向かされた。首痛めた。
「……、友だち?」
「?ああ、だからそんなこと言うな」
なんだかむず痒い。自然と眉が下がって顔に熱が上がる。
「ご、ごめん…」
俺がそう謝ればマリル様は固まった。
「っ……あ、あー…わかればいい…」
ぎくしゃくとマリルは自分の席へ戻って行く。それによって開けた視界の中で見えたのは周りからの目。今度は好奇の視線ではなく熱ったような視線。
「……?」
俺はそれに耐えられなくてまた外を見た。そうしていれば段々睡魔を感じて、日向に照らされながら俺は眠ってしまった。
起きた時もう3限の終わりだった。実技だからとマリルに起こされた。
「…あ、そう言えば決着ってどうなったの」
「あぁ、一応同着って事になってたぞ」
同着かぁ、クロに言うこと聞いてもらえない。まあいいか、たくさん甘やかして貰ったし…
そう思いながら俺はマリルと一緒に実技の授業へと向かった。
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