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【56】幸福。
私とグレイルが結婚してから、もうすぐ二年半になる。
最初の一年ほどは、ゆっくりと過ごしていたのだけれど、話し合って一年半前くらいから、避妊の魔術を用いなくなった。するとすぐに私達は子宝に恵まれて、三ヶ月ほど前に私は、男の子を出産した。エルディアス侯爵家の次代の後継者だ。義父である宰相閣下も、お義母様も大変喜んでくれたし、叔父様夫妻やマルスも本当に喜んでくれた。
子育てに関しては、私よりも先に御子を出産なさったセレフィ様が、手紙で色々教えてくれる。私達の文通は、今でも続いている。エドワード殿下とユイレ様も、少し前にご成婚された。
順風満帆……そんな言葉が相応しい生活を送っている私は、時々十二歳の記憶が戻った日の事を考える。乙女ゲームに転生したのだというのは今も間違いないと思っているけれど、この世界で生きていく分には、それはゲームではなく現実であるから、結局のところ未来については、ミリしら――というしかない、と、私は感じている。
知っていても知らなくても、私は自分なりに、これからも頑張っていきたいと思う。
私はとても幸せだ。それはグレイルが隣にいてくれるからでもあるし、息子や、家族、周囲のみんながいてくれるからその支えも大きい。この幸せを、私はいつかみんなに返したいと思っているのだが、そんな話をするとグレイルがいつも言う。
「もう十分、俺は幸せだ。俺の方こそ、隣にリリアがいてくれて幸せなんだ」
グレイルは今、私の肩を抱き寄せて、もう一方の手では膝に乗せた息子を抱きしめている。これから先何が待ち受けているのかを私は知らないが、多分幸せな気がしてならない。
私は絵本を片手に、視線をグレイルと息子に向けた。
これからも、幸せな日々が続きますように! そう願いながら、静かに絵本を私は閉じる。そして瞼も閉じて、幸福を噛みしめた。
―― 了 ――
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