妄想

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 結局公園でもそれをポケットから出すことができず、僕はどうすればいいのかと考えた。このまま家に帰って、家の中でそれがポケットから出てきたら、家族が襲われてしまう。それは絶対に嫌だ。だから家に帰ることはできない。ポケットから出てきたそれが絶対にどこにも行けないような状況でポケットから出すというのはどうだろう。部屋に鍵をかけて、その中でポケットから出すのだ。それしかないかもしれない。  もしそうしたら、僕は助かるのだろうか。ポケットからそれを出して、すぐに部屋から逃げたら、大丈夫かもしれない。もしそれが、ポケットから出てきてすぐに大きくなってくるのだったとしても、出てきた直後はまだ小さいのだから、ポケットからそれを投げ捨てて、すぐに部屋から出ればきっと大丈夫だ。いや、それ以前に。  少しもったいないけれど、ジャケットごとその部屋の中に捨てて、鍵をかけてしまえばいいのだ。そうすれば、それは外に出られないだろうし、僕も安全だ。ただ、その場合、何も知らない人がその部屋に入り、何も知らずにジャケットからそれを出してしまったらどうなるのだろう。きっとそれはその人に襲い掛かり、もしその人が部屋の鍵をかけていなかったら、部屋から出て行ってしまうだろう。  妄想だと自分でもわかってはいるのだけれど、それでもその妄想は止まらなかった。そして考えれば考えるほど、それが現実になってしまいそうな気持になる。だから、万一それが現実になった時に備えて、解決策を考えておくのは大切なことなのだ。  いっそ警察にでも相談すればいいのではないか、とも思ったけれど、きっとこんな妄想のような話は信じてもらえないだろう。かといってそれを証明するために、ポケットからそれを出してしまったら、襲われてしまう。だからやはり、部屋の中にそれを閉じ込めて、それが危険なものであると皆が分かるようにしないといけない。  僕はそれを閉じ込めることができるような場所を考えた。そして、大学の研究室が適切だと気付いた。鍵は借りることができるし、窓ガラスから中を見ることもできる。それが一番だと気付いた僕は、そろそろ夜遅くなり始めていたけれど、大学に戻ることにした。  歩いている間も僕はポケットの中に意識を向けていた。もし油断すると、僕がそれを出さなくても、自分から勝手に出てきてしまうかもしれないからだ。けれど幸いそんなこともなく、僕は大学に着き、鍵を借りて研究室の前に来た。夜遅いからだろう、研究室には誰もいない。  僕は部屋に入り、ふぅ、と息を吐いた。それからゆっくりとジャケットを脱ぎ、逆さにしてそれをポケットから出せるようにした。それが出てきたら、すぐに部屋から出て鍵をかけられるように体勢を整える。  はっ!と思わず声を出してしまいながら、僕はジャケットを逆さにして振った。その卵のようなものはポケットから出てきて床に落ち、ゴ、と音を立てた。すぐさま僕は部屋から出ようとしたけれど、ドアに手をかけた直後、足が何かに引っかかった。  驚き慌てて足を引いたけれど。足は、引っかかっているのではなく、捕まれていた。僕はそのまま引っ張られて床に倒れた。何とか体を起こして足元を見ると、割れた卵の中から、何か手のようなのが伸びていて、それが僕の足をつかんでいるのだった。  そして。
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