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清庵女学院まではそう遠くはない。
門の前に車を停めた平さんはあることに気がついた。
「このまま入ったら不審者やな」
「間違いなくそうですね」
いくら探偵とはいえ、学院の敷地内に勝手に入ることはできない。
女学院と名を打つお嬢様学校なら尚更。
「まずはお偉いさんにお願いせなあかんな」
「探偵です、調査させてください。ってですか?信じてもらえますかね?警察みたいに手帳のある国家公務員でもあるまいし。不審者として通報されるのとか、俺嫌ですよ」
「ほな、どないすんねん」
残念ながら清庵に関係するような知り合いもいない。
「少し離れたところに車停めてください」
もうすぐ授業を終えた生徒たちが出てくるころだ。
「平さんはここで待ってて下さい」
門が見える近くのパーキングに駐車した車内で、理由も手段も告げずそれだけ言って車を降りる。
「は?え、ちょっ!玲音!!ったく、勝手なんやから……」
2人で門の前にいても怪しまれるだけだし。
1人の方が都合が良い。
門の横の塀に背をつけて、スマホを弄るフリをしながら、ちらほらと出てきた生徒を伺う。
もちろん普段はいない男が門の横に立っている珍しさから、生徒たちもチラチラとコチラを気にしているが、決して目を合わせることはしない。
あくまで視線は人探しの若く彷徨わせる。
「いた」
そして数通る女子生徒の中から、目的の人物を見つけた。
イジっていたスマホをポケットにしまい、彼女の前にスッと立ち、歩みを妨げた。
そんな俺の行動に、足を止められた向こうは怪訝そうな表情を浮かべる。
そりゃ、そうか。
「学校お疲れ様。さ、行こうか。鞄持つよ」
「えっ、ちょっっっ!」
反論される前に、半ば強引に鞄を奪い、手を引く。
あれ、これも犯罪の一種か、と思いつつも、説明すればわかってくれると信じて強硬手段。
とりあえず、誰にも聞かれないような場所で話をしなければ。
生徒のいなさそうな公園までくると、彼女の方からグッと俺の手を払った。
「な、な、な、なんなんですか、一体!?急に、こんな……。け、警察っ………!警察、呼びますよ!!」
スマホを胸に当ててギュッと握り、怯えた様子の彼女に申し訳なさが込み上げてくる。
そりゃ怖いよな。
しかも、後を追うように平さんまで公園に現れたら尚更。
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