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(Side:里斗)
「里斗くん、この前の件の経費なんだけど」
社長がソファーに深々と沈み、タバコを咥えて長い足を組みながら新聞を読んでいる最中。
この探偵社の稼ぎ頭でもある周玲音さんが僕に声をかけてきた。
絶対この人の方が社長に向いていると僕は思っている。
何を隠そう、この探偵社に舞い込んでくるほとんどの依頼は、彼がこなしているからだ。
「領収書、ありますか?」
丁寧に仕舞い込まれた領収書を預かり、計上していく。
捜査でかかった費用は依頼料に上乗せできるものとそうで無いものがある。
そうで無いものは、基本的に社から出るのだが、玲音さんの持ってくる領収書はいつも社から出すものに分類される。
それも彼の優しさなのだが、社長はどうもその優しさが許せないらしい。
「まぁた、わざわざ経費で落として。金無くなったらどないするん」
「なら、平さんもきちんと働いてくださいよ」
「俺がでるまでもなくお前が解決するやろ、いつも」
「だから、別の仕事を」
「それはあかん」
「なんで」
「危ないやん。自分1人で何かあったらどないすんねん。未成年やろ」
「………、はぁ」
また始まった、と画面へと視線を戻す。
標準語を話す玲音さんと、訛りの強い社長の攻防は聞いていて面白いが、得るものは無い。
結局、社長は玲音さんに1人で行動させたく無いだけだし。
所謂、過保護だ。
玲音さんは19歳。
もうすぐで成人を迎えるらしい。
僕の1つ上にしては随分と落ち着いている。
僕の憧れでもある。
社長の何倍も頭がキレるのに大学にも通わず探偵をしているなんて、絶対に訳ありなのだろうが、そこまで突っ込んで聞いたりはしない。
「そもそも、自分優しすぎるんよ。こないだかて男に抱きつかれとったやないか。抵抗もせんと腕ん中収まりやがって」
「あれは、依頼人だったから……。すぐ離してくれたし、嬉しさのあまり抱きついちゃっただけだって、ちゃんと謝罪してくれたじゃないですか」
「そないなわけあるか!絶対下心あったやろ。タイミング狙ってたんや」
ふむ。
もはや、恋人なのではと疑いたくなる会話だ。
社長のそれは過保護というよりは嫉妬だな、正しく。
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