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(Side:里斗)
なかなか終わらない言い合いを制したのは、カランとドアのベルを鳴らして入ってきた男の声だった。
「まぁーた痴話喧嘩しとんの?」
「……ち、、、っ!!!そ、そんなんじゃありませんっ!!」
「レイちゃん、赤くなっちゃって〜〜〜かぁイイやん〜〜〜」
入って来た男、スバルさんは社長の昔からの知り合いらしく、よくこの探偵社へ訪れる。
その度玲音さんや社長を揶揄って遊んでいるのだが、ここまで玲音さんが顔を赤らめて怒っているのは珍しい。
美形が頬を染める姿はなんとも妖艶だ。
そっちの気はない僕ですら、クラッときそうである。
きっと今の玲音さんにぬわれたら、一つ返事で抱いてしまうだろう。
まぁ、そんなことはないが。
ほら、向こうで社長が、すごい目で見ている。
僕は何も悪いことは考えていません。
ただ、お客さんが玲音さんにハマるのもわかるなぁー、と思った次第です。
だなんて、社長に伝わるわけもなく。
「里斗、今良からぬこと考えとったやろ」
「いえ、そんなことは」
即答したのが悪かったらしい。
「自分、玲音に手ぇ出したらクビやで」
「もちろん!そんな気はサラサラ……」
ズンズンと近づいてきた社長が、その整った顔をズイッと近づけて素敵な声で脅してきた。
「レイちゃん、彼氏が浮気しとるでぇ。ワイらも浮気しよか。あないな男やめて、俺にせぇへん?なぁ?」
そんな僕たちの様子を見ていたスバルさんが玲音さんの肩に腕を回して社長を煽る。
「浮気もなにも。そもそも、彼氏なんかではありません」
すっかり標準に戻った玲音さんが、パシリとスバルさんの手を叩く。
「ホンマ、つれへんなぁ。それはそうと、お客さん、来てはるでぇ」
その言葉で、玲音さんの視線がパッとドアへ向く。
ーそれなら早く言ってくださいよ!ー
と言う玲音さんの心の声が聞こえた気がした。
社長がソファーに座り、僕はお茶を用意する。
玲音さんがお客様をソファーまで案内して社長の隣に座り、依頼が始まる。
スバルさんは何食わぬ顔で窓際の社長の席にドカっと座っている。
それが我が社、暁探偵社の日常。
そんな日常が、僕はとても気に入っている。
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