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「わかった。スバル、頼めるか?」
「ほんなら、報酬はレイちゃんのキーーっ、ちょ!冗談やないか!」
スバルさんの冗談に平さんが持っていたペンを投げる。
危な。
「ホンマ、レイちゃんのこととなると冗談も通じんくなるな、ヘイちゃんは」
投げられたペンを難なく交わし、ひょいっと拾うといつの間にか持っていた請求書に希望金額を書き始めた。
相変わらず手癖が悪い。
そこから大人の会話が始まると、俺はお役御免である。
カップを片付けるべくキッチンへ向かえば、里斗くんがサッと現れて代わろうとしてくれたが、カップ1つくらいすぐに終わる。
「それにしても、街で見かけただけの人たちをよく覚えてましたね。いくらストーカーチックだったとはいえ……」
そうか、と洗い終わったカップをひっくり返し、手をタオルで拭きながら里斗くんに向き直る。
流石、天才だ。と目を輝かせる彼に種明かしが必要そうである。
彼はまだ知らない。
俺が“天才”と呼ばれる所以を。
別に隠している訳ではないし、と口を開いた。
「里斗くん、カメラアイって知ってる?」
「カメラ、アイ……?聞いたことはあります。瞬間……えっ、まさか!?」
探偵社にアルバイトを申し込むだけはある。
話が早くて助かるな。
「そう、瞬間記憶能力。一目見ただけで全てこの脳に記憶される」
「すごっ!!ほんなら、テストなんかも困らへんねや!えぇなぁーー」
興奮のあまり普段の丁寧な敬語が外れている。
「せやのに、大学にもいかんと………。京大でも簡単に入れるやろうに」
聞こえぬ様にボソボソと呟いているつもりなのだろうが。
この距離では丸聞こえだ。
まぁ、別に気にしないが。
今までのイントネーションだけのそれと違い、ここまでベタベタな関西弁を彼から聞けるとは思っていなかった。
笑顔を崩さず見つめて待っていると、ハッとした様に今の状況に気がついた。
「あ、すみません……」
「良いよ、別に」
面白かったから、と言うのは言わないでおこう。
「なら、社長が過保護なのは……」
「この力はね、良いことだけじゃない。だから、平さんも気にかけてくれてるんだよ。残しておきたくない記憶がなるべく起きない様にね」
里斗くんは、納得した顔をしつつ心配するような、そんな複雑な顔をしていた。
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