File 1

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「でも、なら、何故探偵なんか……」 そうだね。 きっと不思議だろう。 嫌なことが起こりうる、むしろ嫌なことだらけの探偵なんてやらなければいいのに、と。 「平さんのために、あの人がこの力を必要とする限りは、力になりたいんだよ」 こんな俺を拾ってくれたあの日から、そう誓っている。 彼に、いらない、と言われるその日まで。 彼の側で支えるんだと。 「そんなに社長のこと……」 何か勘違いしていそうな里斗くん。 「僕、応援してます!」 ほら。 いやいや、違うよ。 とつい声に出して笑ってしまう。 へ?というアホ面がコチラを見つめていて、更に笑いが止まらなくなる。 真剣な話をしている2人に聞こえないよう抑えるので必死だ。 涙まで出てくる始末。 「何、玲音泣かしとんねん!しかも泣き顔見て顔赤くしよってからに!!」 タイミング悪く入ってきた平さんに、無駄に怒られてアワアワしている里斗くん。 それにより、ますます笑いは止まらなくなる。 そろそろ可哀想かな、と必死に無実を訴える里斗くんに助太刀。 「平さん。隣で貴方を支えたいって話ですよ」 「なっっっ///よ、よし!結婚しよや!」 「や、やっぱり……」 「ブ………、ぶふぉwww」 また誤解を招いたらしい。 が、まぁいい。 『自分すごいやん!行き場ないんやったら、一緒に探偵やらへん?ウチの上空いてるで』 『その嫌な記憶ってやつ、無くならんとしても、思い出す余裕が無きゃえぇんやろ?毎ッ日色んなことあって、慌ただしく過ごして、意識的に思い出さんくすればいいんや』 『苦しいときは俺がおるから、助け呼びぃ。な』 自分が嫌で嫌で仕方なかったあの頃。 逃げ出してきたこの場所で。 救い上げてくれたのは。 駆け出しの、男前なポンコツ探偵だった。 深くは聞かずに居場所をくれた。 毎日が新しい出来事で。 毎日が慌ただしい。 あれからもうすぐ1年が経とうとしている。 結婚、結婚と騒ぎ立てる平さんも。 俺と平さんを交互に見て顔を赤らめる里斗くんも。 吹き出した口を押さえて爆笑するスバルさんも。 みんな、大好き。 心地よいこの場所が安心できる俺の居場所。
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