11.狼の本懐※

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11.狼の本懐※

 分かったことがある。  どうやらダリアが言っていた僕たちが一線を超えたという供述は本当らしい。香油と呼ばれる滑りを良くする魔法のアイテムを使ってくれたお陰か、僕のお尻にそれほどの負担はなかったようだが、二度目の性交で僕は自分の内臓を抉るその剛直の感覚を思い出した。 「……っ…ヒューイ、きつい」 「あ、ごめ…なさ……っひゃん!」  ぬるりと引き抜かれたかと思ったダリアの肉棒が突き刺さるように再び体内に戻ってきた時、僕は一瞬意識が飛びそうになった。実際にたぶん少しの間は飛んでいたと思う。  部屋の中には僕たちの肌がぶつかり合う音、もう意味をなさない服が擦れる音、そして不慣れな僕の口から溢れる啼き声が響く。加えて、香油のせいで聞こえる卑猥な水音も羞恥心を高める役目を買っていた。  後ろから覆い被さっていたダリアが、僕の身体をくるりと上に向けた。異物が抜ける感じはやっぱり慣れなくて、僕はまた変な声を上げてしまう。  さっきまでシーツだけを見ていれば良かったのに、今、僕の目の前にはダリアの上半身がある。少し汗ばんだ肌の上に手を置くと、ダリアはピクリと反応した。それに呼応して彼の分身も僕の腹の上で揺れる。目を塞ぎたくなるぐらい雄々しい。子供みたいにつるぺたで筋肉の欠片もない僕とは対照的に、ダリアは画家の創作意欲をくすぐる程度には美しい身体をしていた。  そして、それは彼の下半身から伸びる陰茎に関しても言えることで、僕はぬらりの光るこの凶器が自分の薄い身体に本当に刺さっていたのだろうかと今更ながら恐ろしくなる。 「もう少しだけ、良いか?」 「………うん」  はっきり見えないけど分かる。  ダリアはきっとまた困った顔で、僕の様子を窺うように聞いてくれている。嫌ではないのだと伝わるように、なるべく気持ちを込めて返事をした。  くちゅ、と小さな水音を上げてダリアの肉杭が僕の穴に挿入される。息が止まるような圧迫感の中で、安心させるように頭を撫でられて僕はそっと顔を上げた。  ダリアが僕を見ていた。  黄色いお月様のような瞳は少し潤んでいる。僕は自分がいっぱいいっぱいで気付かなかったけれど、細やかな気遣いを欠かさないダリアだって、決して余裕があるわけではないのだと思った。  きっと、本当はもっと乱暴に、己の欲望のままに動きたいに決まってる。それをダリアは不慣れな僕のために、思い遣りを忘れずにゆっくりと丁寧に扱ってくれているのだ。 (どうしよう……嬉しい、)  今までいったい誰が僕にこんな風に接してくれただろう。通りを歩けば陰口を叩かれ、家では用無しの病人として肩身の狭い思いをする。肉親からすらも疎まれ、友達と呼べる存在も居なかった。  ダリアに出会うまで知らなかった。  誰かに想われることが、こんなに温かいなんて。 「ダリア、」 「ん?」 「ありがとう……僕、君と会えて初めて今まで生きてて良かったと思えた。ダリアが教えてくれたんだ」 「そんなこと、今言うな」 「え、なんで?」 「色々我慢してるんだよ、可愛いこと言わないでくれ」  そう言って片手で目を覆うと、ダリアは誤魔化すように僕の首元に顔を沈める。弱い首筋を舐められて、僕はもう何も言えなくなってしまった。 「っん、あ、ああっ!やめて、僕ほんとにそこは…!」 「だから良いんだろう?」 「ダリアの、いじわる……っ!」  我慢出来なくて僕は何度目かの絶頂を迎えて、シーツの上に白濁した液体を吐き出した。ムンと鼻を突く青い匂いに気が遠くなりそうになる。  寝具を汚すこうした体液が、ダリアのものなのか僕のものなのかはもはや分からなかった。  半分意識を手放している僕の上で、狼は少しだけ動きを早めて薄くなった精を僕の腹の上に出した。僕はもうほとんど夢の中で、優しい手が労るように頬を撫でるのを感じた。
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