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35.罪と罰※
「……っん、あ、っああ…!」
「すごいねぇ。どんどんお尻に入っていっちゃう。こういう道具は使ったことがない?初めてなんだね」
「いたぃ、抜いて、」
「そんなこと言って、いつももっと太いのを挿れているんだろう?王女に聞いたよ。君のパートナーは狼の獣人だそうだね」
「あんっ!」
胸を触られた拍子に、尻に入っていた丸いボールが一つ外へ出た。いくつもの玉が連なったようなデザインのそれは男のお気に入りのようで、楽しそうに舐め回した後で男は僕の尻にそれらを挿入していった。
もう何個ナカに入ったのか分からないけれど、苦しくて吐きそうだ。排泄に使う穴をこんな玩具で弄ぶなんて下品も良いところ。嫌で嫌でたまらない。
本当に、嫌なのに。
「あ、またイっちゃったね。さっきも約束したけどイく時はちゃんと言わなきゃ。それにしても厭らしい子だ」
「……っんん!」
男の手が勃ち上がった僕の肉塊を撫でる。
どうしようもなく嫌でも、反応してしまう自分に涙が出た。おそらくさっき塗られた変な香油に催淫作用があったのだろう。そんな便利なものがあると、兎のレニも言っていたっけ。
こんな風に見ず知らずの男に試されるぐらいなら、ダリアと試してみたかった。彼は嫌がるかもしれないけど。
何度目かの吐精を終えて、僕はぐったりとベッドに突っ伏する。もう眠ってしまいたい。いっそ目なんて覚めなくても良い。全部全部夢で、楽しかったことだけ覚えていれば。
目を閉じてわずかに感じた幸福を掻き消すように、身体の上に汗ばんだ肌が触れるのを感じた。首を捻って見上げるとニタッとした笑みを浮かべて男が僕を見ている。
しっかりしないと、こんなヤツに良いようにされてちゃダメだ。勇気をもって振りかざした拳は空を切って、代わりに強烈な平手打ちを喰らった。唇が切れたのか血の味が口内に広がる。
二度目の衝撃に備えて目を閉じたところで、部屋の扉が開いた。
「楽しんでる?」
「………っ!」
ミーシャは穏やかな表情で数歩足を進めて、すぐに顔を顰めて立ち止まった。
「この部屋くさいわ。オスの匂いがする」
「あぁ、すみませんねぇ。こいつが撒き散らすもんで」
「バレンティン侯爵、好きにしてとは言ったけれど部屋を汚すのはいただけないわ。綺麗にして返してね」
「へへっ、分かりました。おい、ほら舐めろ!」
グッと頭を掴まれてシーツに出来たシミの上に押し付けられる。僕は涙でぐしゃぐしゃになった顔をもう誰にも見られたくなくて、そのまま顔を上げられなかった。
情けない。弱くて愚かだ。
愛情乞食というミーシャの表現はきっと正しい。
僕はこんな風にされている今でも、ダリアに会いたくてたまらない。とてもじゃないけど会える顔じゃないし、ダリアは僕の姿を見て嫌いになるかもしれない。
それでも、賢い王女の言う通りに僕が都合の良いダリアの暇潰しだったとしても、僕はダリアのそばに居たい。
「汚い…醜いわね。女みたいな顔して抱かれて」
「これは貴女が!!」
「アンタは偽物よ。どっちでもない。女にもなれないし、男でもない。残った価値はこれぐらいでしょう?」
「……っあ!」
頭を垂れた陰茎をぐりっと踏まれて声が出た。
後ろで男がモゾモゾと動いて、僕の尻に濡れた何かが触れた。ギョッとして固まる。
「ちょっと、私の目の前でそのような汚物を出さないでもらえる?次の客に回しても良いのよ」
「わぁ、それだけはご勘弁を!こんな上玉の男はなかなか男娼でも居ないんです。息子を宥めるのも良い加減疲れちゃいまして……」
「ああそう。分かってると思うけど、他言は許さないから」
「もちろんです。私にとってミーシャ様は神様も同然!」
僕の尻を撫で続けながら男はそんなことを言う。
王女に醜態を見られている今も耐え難いけれど、王女が去ったらきっとこの男は僕を犯す。来たるべき地獄を思えば、この腐った会話を聞き続ける方がマシだった。
大きく肩で息をしながら、ただ時間が流れるのを待つ。
中身のない賞賛が暫く続いていよいよ王女がその場を去ろうとした時、閉じていたはずの扉がゆっくりと開いた。
「………っな、え、どうして…?」
ミーシャの驚いた声に、僕は入り口の方に顔を向ける。
もう誰だって良い。一人ぐらい観客が増えたところで何も変わらない。誰も助けてくれないなら、いっそここで僕を終わりにしてやくれないか。
しかし、頭から水を被ったように僕は硬直した。
とろんと落ち込んでいた眼を大きく見開く。
「ミーシャ、これはどういうことだ?」
そこには激しい怒りを宿したダリアが立っていた。
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