04.厄介な遭遇者◆ダリア視点

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04.厄介な遭遇者◆ダリア視点

 男を初めて見た時、雪の妖精が早めの冬を祝いに来たのかと思った。  色素の薄い白い髪に対照的な真っ赤なローブを羽織って、困ったように眉を下げている。肉の付き方から、その人間が生物学上は男というものに分類されることは理解出来た。  だけれど、透き通るような肌や艶々とした唇は、自分の判断を鈍らせそうで恐ろしかった。 (………なんてことだ。人間に出会うなんて)  面倒ごとに巻き込まれたくない理性と、もう少しこの男のことを知りたい欲望が議論を始め、結果が出ないうちに口からは朝食の誘いの言葉が飛び出していた。  狼人間。  それは近隣の村人たちが自分を呼ぶ時の名前。  実際に会ったことは数えるほどしかないし、日中はこうして耳や尾を隠して生きているから見つかってもバレやしない。しかし、稀に変装を解いた状態の自分を目にした人間たちは一目散に逃げ出す。しかとその姿を確認することもなく、獣人が現れたと叫びながら去って行くのだった。  べつにもう慣れたし、変な付き合いがないのは有難い話だ。古くから森に棲む自分たちのことを勝手に「黒い森の支配者」として恐怖の対象とし、五年に一度彼らは生身の人間を送り込む。変な習性だと正直バカにしている。  しかし、彼らが知る由もないことだが、実際のところ送り込まれた人間は宛先人の元に届く前に死に絶えていることが多かった。  ほとんどは昼間でも薄暗い森の中で道を誤って転落死、もしくは他の獣に遭遇して殺されることもある。運良く自分たちの元に到着したとしても、恐怖のあまり舌を噛み切って自死したこともあった。  父親が死に、森の中で生きる孤独な王となって今までに四人の生贄に出会ったが、その若い女たちは既に息をしていなかった。赤いローブの中で静かに息絶える彼女たちの目を閉じて埋葬するのは、ただ仕事のようなこと。何も知らない相手に同情なんて無い。  しかし、今回はどうしたものか。  後ろを付いてくる男を盗み見る。痩せた身体は男のそれだが、羽織っているのは生贄の女たちが身に付けていた赤いローブだ。父からの言い付けで、このローブだけはいつも森の入り口に返していたので一目見れば分かる。  今回は何故男を送り込んで来たのか?  まさか自分の寝首を掻くための作戦?  父曰く「赤ずきん」と呼ばれるその生贄に選ばれた不運な男に憐れみの気持ちはない。ただ、胸を内側からくすぐるような不思議な感覚の名前を知りたいと思った。
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