泣けない

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 それは唐突だった。春休みのある日、僕はゲームで時間を潰していたらチャイムが鳴った。多分、お母さんかお父さんに用事のある人だろうと思っていたら、お母さんが僕を呼ぶ。 「雄斗! ちょっとおいで!」 「何ぃ?」  間延びした返事をしながら、言われるままに玄関に行くとそこには拓真のお父さんがいた。 「拓真のお父さん!? どうしたの?」 「君にお礼を言いにね」 「僕、何かしましたか?」 「したした。君のせいで拓真とはじめての親子喧嘩をしたよ。拓真があんまりボロ泣きでわがまま言うから、私も折れてしまったんだ」 「えっと、なんの話ですか?」 「まだ引っ越しは好きだけど、拓真がどうしても南軽小学校に戻りたいっていうから六年生の一学期から拓真はこっちに戻ってくる。君のせいで拓真はわがままになっちゃったよ」 「本当に!? やった!」 「全く。君に拓真を泣かせられたせいで、拓真は言いたいことを言う子になっちゃったよ。本当にありがとう。やっと親子になれた気がする。君には感謝してもしきれない」  拓真のお父さんは深々と頭を下げる。 「やめてください。そんなの拓真に怒られますよ?」 「いいんだ。拓真が平然と文句を言えるようになったのは君のおかげだから。また春から頼むよ。では私はここで」  拓真のお父さんはもう一度、僕に頭を下げて去っていた。  扉が閉まる僅かな隙間に雪解けの匂いが混じった風が舞い込む。春はもうすぐ。拓真を連れてやってくるんだ。
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