泣けない

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 二人並んで車を眺めていたら大人の男の人と僕らくらいの子供が降りてきた。 「なんか高そうなコート……」  燈矢はコートに対して言ったが僕は転校生であろうと男の子の表情が気になった。笑顔なのにまるで仮面のようだ。色が白く顔立ちが整っているからかも知れないが気になったのだ。  車から降りた二人は校舎に入っていく。男の子は僕らには気付いていなかったようだ。 「音楽家っていうだけあって線の細い奴だな」  燈矢の言葉は嫌味にも聞こえるが、単に思ったことをそのまま口にしただけだ。燈矢に悪意は微塵もない。 「燈矢行こう。遅刻したら斎藤先生煩いからさ」 「だなぁ」  教室に入るとみんながそれぞれお喋りをしている。どうやら僕らが一番最後らしい。 「おはよう! 僕ら転校生見ちゃった!」  燈矢のそういう性格がお調子と言われる所以だろう。 「なんかイケメンだったぞ!」 「知ってるよ。テレビにも出てる子だし動画もチェックしてるし私の推しだもん!」  明美が腰をくいと曲げて組んだ手を顔に寄せる。 「そんなのやっても可愛くないからな。あざといっつうの!」 「何よ! あざといは正義なのよ!」  燈矢と明美の言い合いが始まる。放って置くに限る。 「雄斗も見たの?」  香菜が僕に聞いてくる。 「見たよ。仲良くできるといいよね」  とは言ってもやはり彼の表情が気になる。何というか寂しそうだった。勘なんて信じる訳ではないが、そう感じたんだ。 「でも三学期だけなんだよね? 仲良くしてくれるかなぁ」  香菜は不安そうに顔を曇らせる。 「なれるよ。てか僕らみんなで仲良くしようよ」 「そうだね」  香菜は笑顔を見せる。  あとのメンバーは燈矢と明美のやり取りを笑いながら見ている。 「大体先週までそんなこと言ってなかったじゃん!」 「当たり前でしょ! 今週からの推しなんだから! 私は恋多き女なのよ!」  ほとんど漫才みたいなことを毎日やっている。よく飽きないなとは思うけど、それを見ないと一日が始まった気がしない。僕らにとっては大事な茶番なんだろうな。
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