泣けない

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 ホームルームが終わったあと、僕は拓真の手を引いて廊下に出た。 「ちょっとーー!」  明美が叫んでいたが知るものか。 「ここは全校で七十一人。小さな学校だ。音楽室、理科室、体育館はちゃんとある。もちろん保健室だって」  拓真と並んで歩き説明をしつつ、校内を歩く。拓真は相変わらずニコニコと笑っている。小さな学校なのだから、十分休憩であらかたまわれた。 「あと、気になることは?」 「うーーん。君のことかな?」  え? と声をあげてしまったが、拓真は相変わらずニコニコしている。 「戻ろう。授業が始まる」  拓真が言いたかったことは何なのだろう。それが気になって、一時間目の国語は全く頭に入らなかった。斎藤先生はすぐにそれに気付いたようだ。 「どうやらみんな授業が頭に入らないようだな。レクにしよう。拓真に自己紹介をしてくれ」  斎藤先生が好かれるところだ。どうやら浮足立っているのは僕だけではなかったようだし。 「はいはい! 私、佐々木明美! 拓真くんの動画見ました! めっちゃ格好良かった!」 「はい。次」  斎藤先生、明美の熱量をきっぱりと断ち切っていく。長くなりそうだと踏んだんだろうな。 「僕は吉川燈矢。雄斗の大親友だから! 三人で仲良くしようぜ!」 「私は小川香菜。あんまり目立たないけどちゃんといるから認識してください」 「僕は田川裕介。一応委員長やってる。まぁここじゃ誰が委員長やっても同じだからみんなと同じに接してくれ」  残りのメンバーも次々と自己紹介をして、時間はあっという間に過ぎた。 「さて時間だ。次の算数はちゃんと身入れなよ」  チャイムと同時に斎藤先生は教室を去っていく。その瞬間、拓真は囲まれた。 「ねぇねぇ、小学生音楽家ってどんなことするの?」 「趣味は何?」 「彼女いるの?」  まるでアイドルだ。確かにアイドルみたいな顔付きなんだけど、拓真はニコニコしながら一つずつ丁寧に答えていく。疲れないのだろうか。休養がてら、この学校に来たっていうのに。  
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