泣けない

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「小学生音楽家って言ってもお父さんが有名な音楽家だから、それに乗っかってるだけだよ。それ以外は普通の小学生だよ。彼女なんかいないよ」  拓真は相変わらず笑顔で答えているが質問は止まらない。 「お金持ちなんだよね?」 「動画取ってる姿見てみたい!」  拓真は困った顔をする。そりゃそうだろ。みんな距離感近すぎるよ。 「そういうのはゆっくり教えてもらえばいいんじゃないか? 拓真もいきなりは困るんじゃないか?」  つい見かねて僕はそう言ってしまった。全員が僕の顔をまじまじと見つめてくる。 「そうね。確かに雄斗に言うとおりかも。ごめんね。私たち、転校生なんか来ることないって思っていたから」  明美が切り出して、次々と拓真に頭を下げる。 「君らは……いい奴なんだな」  拓真がそう言った瞬間にチャイムが鳴る。算数が始まる。ただ、その言い方も僕は気になった。含みがあるような言い方が。  算数を終えて社会を終えて理科を終えて給食の時間。 「ここは係がよそってくれる訳じゃないんだね」 「他の学校じゃ係いるの?」 「大体いるよ。こうやって自分でよそって配膳するのは僕はここ以外知らない」 「拓真ってそんなにあちこちの学校行ってたの?」 「うん。色んなことがあったから。ここでは出来れば平穏に暮らしたいけど、それが叶うかどうかも分からないし」 「ふうん」 「雄斗は何があったか聞かないの?」 「僕はさ、拓真と仲良くしたいんだ。そうなったら拓真は勝手に教えてくれるだろ? だからさ急がないよ」 「君は、いい奴だ。だけどどうかな? 僕には自信がない」 「僕だってないさ。そんなのいいから食べようよ。冷めちゃう」  教室の会話なんて、みんなに筒抜けだ。拓真にそう言ったのは僕なりの配慮だ。みんな、気になるだろうけど、急ぐなと。そういうメッセージなんだ。  朝から質問攻めの拓真を見ていると哀れに思えてしまう。有名になるってことは、プライバシーを侵害されることもあるだろう。せめてこの学校にいるときくらい、そんなことは忘れて欲しい。休養のための転校とは言っても、それに対する理由だってあるはずだ。僕らは仲間を見捨てないメンバーだ。みんな分かるはずだ。
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