泣けない

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 ソフト麺をスープに入れてかき混ぜる。隣の拓真も同じ風にかき混ぜていたが、その手は少しだけ震えていた。僕は見ないふりをして麺をすする。仲間たちもそれぞれに麺をすすっている。給食の時間にお喋りすると斎藤先生に注意されがちだからだ。理由は給食の時間に騒ぐと食べ物をひっくり返す人がいるから。僕らは散々見てきたから給食の時間は大人しくしている。どちらかというと騒ぐ僕たちが悪いのだから斎藤先生を怖いって思うのは理不尽かもだけど怖いものは怖い。斎藤先生が注意しやすい時間は大人しくしてるから斎藤先生は有り難いだろうが。  給食を終えて午後の授業は体育からだったが拓真は見学だ。 「お父さんが怪我しやすい運動するなって言うからさ」  そう呟く拓真は寂しそうだった。 「気にするなよ。理由があるんだから誰も責めないよ」 「ありがとう。雄斗は優しいな」  拓真は、すぐに褒めてくる。そのあたりも気になる。今までどんな思いをしてきたのだろう? 頭の中にいじめや仲間外れという言葉が浮かぶ。半日一緒に過ごして少しだけ予想できる。違うことを認めない奴っていたんじゃないかろうと。生徒も先生も拓真を悪い意味で特別扱いしたんじゃないだろうかと。でなければ、小学生であちこち転校する羽目にならないんじゃないだろうか?  なんて考えていたら僕の顔面にボールが飛んできた。 「雄斗〜。ドッジボールのときに気を抜くなよぉ」  燈矢が呆れながらボールを拾いに行く。ボールを投げてきた明美は得意顔だ。 「顔面はセーフだから」  鼻を押さえながら明美に伝える。 「知ってるよ。ドッジボールの最中にボーッとしてるから狙っただけだから」  拓真が体育館の隅でクスクス笑っている。拓真が笑ってくれるんなら、この痛みも悪くないかもな。  二時間連続の体育を終えてホームルーム。今日一日、拓真と過ごして放課後にやりたかったことを拓真に伝えてみる。 「なぁ拓真、一緒に帰らないか? それとも、お父さんが迎えに来るのか?」 「迎えには来るけど……。雄斗の家まで送ってもらおうか?」 「そうじゃないんだ。拓真と一緒に歩いて帰りたいんだ。そのさ……」 「歩いてかぁ」  拓真は真顔になる。 「お父さん、許してくれるかなぁ」 「聞いてくれないか? 僕は拓真と仲良くしたい!」  その言葉に嘘偽りはない。今までクラスではそうだったからとかじゃなく、拓真という人を知りたいと思うからだ。それは拓真を見かけた朝から思っていたことだ。 「聞いてみるよ」  拓真はランドセルからスマホを取り出して何かを打ち込んでいた。 「電話じゃないんだ」 「うん。何か苦手でさ」 「ああ。確かに電話って面倒だよな」 「……うん」  拓真はスマホをいじりながら鈍い返事をした。苦手なのは電話じゃないのかな?  その答えを僕はすぐに知ることになる。
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