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泣けない
雪が散らついている。朝の寒気に身震いして首を竦める。
「今日も寒いな」
「雪国育ちには日常だろ?」
「燈矢は冷めすぎ」
あと数ヶ月で僕らは六年生になる。来年には中学生になる実感は僕たちにはまるでない。五年生の教室は一つしかなく、僕らはみんなで仲良く暮らしてきた。友達というか兄弟姉妹みたいな関係で大した揉め事もなく五年間を過ごしてきた。
「そういや今日だっけ? 転校生来るの?」
「今日だね。雄斗でも気にするんだな」
こんな田舎の学校に転校生が来るという情報は三学期が始まった途端に広がった。なんでも小学生音楽家らしくて、あまりに多忙過ぎて休養を含めて三学期だけ通うのだとか。
「転校生なんて、みんな気にするだろ? ここから転校していく奴はいっぱいいたけど、転校してくる奴はいないからさ」
そう。どれだけみんな仲良しでも僕らは小学生だ。親の事情に生活は左右されるんだ。その上ここは田舎過ぎて、多くの家族が暮らしづらいと街中に引っ越していく。引っ越して行った仲間たちとは今でも連絡を取っているし仲良しだ。スマホを持っているメンバーはグループラインで毎日お喋りしているらしい。
「雄斗は転校生とも仲良くしたいんだよな?」
「当たり前だろ。仲良しなのがうちのクラスの売りなんだから」
「一つしかクラスないけどな」
燈矢は楽しそうに笑う。燈矢に言わせれば僕の性格を一言で表すと熱血なんだそうだ。僕は僕のことをそう思わないか、クラスメイトたちはみんな納得しているとか。燈矢はクラスメイトに言わせるとお調子者なんだそうだ。冬は寒いの当たり前とか言ってる奴がお調子者ってよく分からない。ただみんなで覚えた言葉をクラスメイトに当て嵌めているだけな気がする。
「にしても寒い」
マフラーを結び直す。隙間に雪でも入ったら冷たさで飛び上がりそうだ。
「なんで雄斗はそんなに寒さに弱いんだよ?」
「冬は寒いんだよ」
スタスタと歩いて校門をくぐる。先生たちの駐車場に見慣れない車があった。
「多分あれだ」
燈矢は頷いて見せる。
「きっと転校生が乗ってきたんだ」
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