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「佑月」
紗季は微笑みながら私の名前を呼んでくれた。
私は妻の笑顔を見てホッと安堵したが、時間がないことを考えて、さっそく話をはじめた。
「あの日、娘は元気に産まれたんだよ!
娘の名前は、周りのたくさんの人から愛されるような優しい女性になってもらいたいと願って、『乃愛』と命名したんだよ!」
すると紗季が、
「素敵な名前ね!」
と心から喜んでくれているようだった。
「でも私は、未だにあの時の判断は正しかったのか悩んでいるよ!
子供を産むときに紗季の命を危険にさらすことになると医者から言われた時、出産を諦めていれば紗季は死なずにすんだはずだ!」
妻は身体障害があり、体力的に出産は難しいと医者から言われていたのだ。
私は悔し涙が出て、止まらなくなってしまった。
私は紗季に謝りたくて、今日紗季と再会することを決心したはずだ。
「紗季、本当にすまなかった!」
私が深々と頭を下げて謝ると、紗季が優しく語りかけてくれた。
「いいえ、あの時の判断は間違っていません。
子供を授かりたいと強く願ったのは、むしろ私のほうです。
佑月は身体障害のある私と結婚してくれて、私にとても優しくしてくれました。
だから私は、そんな佑月との間にできた子供を、どうしても産みたかったの…
私は出産で耐えられずに、出産すると間もなく天国に旅立ってしまったけれど、私は後悔していませんよ!」
私は紗季が娘の出産を強く願っていた、あの頃のことを思い出していた。
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