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1.
「あーあ、ローラン様に会えたらなあ」
中学校からの下校中。一緒に帰っていたユミはこちらを見るでもなく、でも反応してほしいという空気を存分に纏いながら呟いてから、湿度高めなため息をはふうと吐いた。まるで、恋する乙女みたいに。
「またその話? もう何度目よ」
わたしは呆れながら返す。
「だってだって、本当にローラン様はかっこいいんだよ。あの時だって……」
「あー、はいはい。もう何回も聞いたって」
またローラン様とやらの活躍を熱弁しようとしたので、わたしはそれ以上の声量で言い、掌をヒラヒラとさせて追い払った。
「会いたいって言っても、ローラン様ってゲームのキャラでしょ? いくら憧れたって二次元の世界には入れっこないよ」
「そうなんだけどさ……」
ユミはなにか言い返そうと口をモゴモゴとさせたけど、諦めたらしく肩を落とした。
ユミの言うローラン様とは、現実の存在ではない。何だったか、長いタイトルのゲームに登場する、姫様を守る騎士のキャラクターだ。何度かユミがゲームをプレイしているのを見せてもらったが、現実にはあり得ないようなイケメンで性格もクールで優しい、また、騎士という立場だけあって忠実で、誰よりも強くスタイリッシュに敵をなぎ倒していた。
そのゲームに出ていた猿みたいなモンスターのように騒がしいクラスの男子共とは、種族すら違うんじゃないかと思ってしまうような男性。ユミが熱を上げるのも分からないでもないし、実際、ファンも多いらしい。
でも、ゲームの中だけの存在。どれだけユミが想ったところで、相手の反応はプログラムに設定されている不特定多数に向けたものでしか無いし、二次元と三次元の壁を超えて触れられはしない。
「私たちももう十五歳。中学三年生。来年には高校生よ。バイトしてお金を稼いだりもできちゃうわけですよ。もうそろそろ現実を見ましょうよ」
「あーあー、聞こえないよー」
大げさに両手で耳を塞ぎながら、わたしの声をかき消す声量でユミは言った。
ユミとは保育園の頃からの付き合いで、小さな頃から無気力気味で周囲の流れに身を任せがちだったわたしは、遊ぶ内容をいつもユミに任せっきりだった。
結果が、当時人気だった映画の魔法の練習をしたり、アニメに出ていた可愛いらしい妖精を街中探し回ったり。
小学生になってからはユミも他人の目を気にしだしたのか、あからさまに目立つような奇行は減ったものの、ネットで見つけた異世界に行く方法を試したり、願いの叶うおまじないを試したりとずっと夢見がちなことばかり付き合わされた。
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