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 でも、一つたりとも成功しなかった。そんな結果を端で見せつけられているのだから、わたしがメルヘンやオカルトに対して冷めてしまうのも当然の成り行きだ。 「でもでも、異世界転生物も流行ってるし、トラックに轢かれたら私もあの世界に行けるかもしれないでしょ」 「止めなさいって。異世界に行く方法はいくつも試したけど、一度でも行けた試しあった? 轢かれたところで行けるのはあの世だよ」  フラフラと車道に近づいていくユミの襟首を掴んで止めると、ユミはぐぅと呻き声を上げた。本当に車道に飛び出すとは思えないけど、念のため。 「マキだって異世界に行きたいって言ってたでしょ。なのに、最近冷たくない?」  唇を尖らせて、ユミはこちらをじろりと睨む。 「だって、いっつも付き合わされてるけど、何も起こらないじゃん。そりゃあ、諦めも付くよ」  わたしは冷ややかに睨み返す。  確かに、あのゲームのような異世界に行けるのなら楽しいと思う。  わたしは現実が好きではない。朝起きて、学校に行って、やる意味があるのかすら分からない勉強をして、家に帰る。その繰り返し。つまらないのに、大人は楽しかった学生時代に戻りたいなんて言う。つまり、大人になるともっとつまらないんだ。  あのゲームのような異世界に行けるものなら行ってみたいと、常日頃から頭の隅の方で願っている。  ただ、ゲームはゲーム。現実じゃない。あの画面の向こうに行ける方法はないし、画面の向こうに異世界なんて存在しないと、十五歳のわたしは知っている。 「あーあ、ローラン様に会えるように、毎日『あなたに会いたいです』って唱えてるんだけどなあ」  恐らくユミの部屋に飾ってあるローランの等身大ポスターに向かって唱えているのだろう。前に部屋に上がったときに、高身長イケメンが壁にでかでかと貼られているのを見て威圧感を覚えた。  夜な夜な「あなたに会いたいです」なんて唱えているユミの姿を想像すると不気味で、友達を止めてしまおうかと過ぎったけど、わたしは口を真一文字に閉じて何も言わないことにした。  これはユミの発作みたいなもので、いつも通りのもの。少し経てばまた他に興味が移ってローラン様とやらも忘れ去られるんだろう。  そう、この時は思っていた。
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