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柊二がゆっくりと動き出すと、野乃花の機微がまた変わる。
「っ、しゅう…」
「野乃花はいつも正直だけど、身体も正直なんだね。欲しがりさんは好きだよ?」
自分はそんなつもりはないのに、身体が柊二の熱を引き戻そうと動いているのが自分でも分かった。
そして、先程まで感じていた圧迫感は消え、柊二が出入りするたびに、
甘美な刺激が皮膚を粟立ててくる。
「…ぁ」
艶のある声が零れだす。
野乃花は、その声を抑えることが出来なくなった。
「野乃花、何もかも我慢しなくていい。どれもこれも、俺にとっては可愛いだけ。野乃花のイイところは分かってきたから、何度でもイクといい。もう、俺も我慢の限界。身体も馴染んだようだし、たくさん可愛がってあげるから」
その言葉以降、野乃花の記憶はぷっつりと無い。
ただ、柊二から与えられた強すぎる刺激が、
全身を電流のように駆け巡っていたのは覚えている。
そして、
「野乃花」
何度も甘く、甘く囁かれた、自分の名前。
その名前を柊二の声で囁かれると、
それだけで身体が歓喜に震えた。
彼、
藍沢柊二は水瀬野乃花の男。
そして、自分。
水瀬野乃花は藍沢柊二の女になった。
自身の恋の成就を成し遂げた野乃花は、
その幸せを噛みしめた。
「野乃花、愛してるよ」
その言葉に、自分も、と返したかったけれど、
容赦ない穿ちに、パチンとナカが一気に弾け、
野乃花はそのまま意識を飛ばし、朝まで起きることが出来なかった。
□◆□◆□◆□
翌朝、野乃花が目が覚めると、柊二は既に起きていた。
「おはよ。野乃花」
「………ぉはよぅ…ございます」
起きた状況が、とんでもなく恥ずかしくなる。
二人は、昨日のままの状態で、
野乃花は、柊二の腕枕で懐に包まれていた。
「野乃花、真っ赤」
「……だって、そのまま寝ちゃってるし、最後の方は記憶がないんです」
「そうだね。昨日は野乃花、盛大にイッて、意識飛ばしちゃったから。もう少し寝てても良かったのに。寝顔、可愛かったよ?」
「……っ」
柊二の甘々なひと言に、恥ずかしいやら何やらで、さらに顔を赤らめる。
「よし、目が覚めたみたいだから、とりあえず汗を流そう」
そう言って、柊二が野乃花を横抱きに抱え上げようとする。
「…っ、あの、歩けますからっ」
「野乃花、無理だよ。足腰立たないはずだ」
そんな訳ないと、野乃花はベッドから降りるのだが、
「きゃぁっ」
柊二の言った通り、野乃花はベッドを降りた途端、
腰が砕けてぺたりと床に座り込んだ。
立ち上がろうと奮闘するが、身体が言う事を聞いてくれない。
「…何で?」
「ほらね?立てなかったでしょ?」
柊二はくすくす笑いながら、野乃花を子供のように抱き上げる。
「…すみません」
「謝らなくていい。昨日は俺が、野乃花に無理をさせたからね。だから、ちゃんとお世話してあげるよ」
不穏なセリフを吐かれた。
「えっ、柊二さんっ…それはっ」
「はー、可愛いねぇ。野乃花は本当に」
結局、野乃花は抵抗虚しく、
柊二から甲斐甲斐しく、お世話される羽目になった。
ちなみに、野乃花が持っていたあの箱。
その中身は、1つも残っていなかった。
「柊二さんは、おバカさんですか!?」
「十数年振りの逢瀬は、思った以上に俺の中の『雄』を煽ってきてさ、抑えがきかなかったんだよ。野乃花は可愛いし、止まれなかった」
爽やかに、にこやかに。
色気を撒き散らされながら、柊二にさらりと言われた。
空っぽの中身のない箱と柊二を見て、
あんぐりと呆れるしかない、野乃花だった。
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