蜜愛04 驚愕

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蜜愛04 驚愕

 この日、和真は久しぶりに実家に帰ろう、と考えた。  これまで講義やバイトで忙しくしていて、帰る暇が無かったのだが、 「………野乃花が不足してる」  枯渇した心が、野乃花を求めてくる。  和真の心の中心にあるのは、いつも野乃花の事だった。  そんな和真に最近、言い寄ってくる女がいた。  篠原聡子(しのはらさとこ)  篠原財閥の令嬢で、高飛車で扱いづらい女、  という触れ込みで有名な女だった。  そして、この女と和真とのファーストコンタクトは、最悪なものだった。  それは、キャンパスで移動中の時の事。 「ねぇ、あなた」  聡子は、いきなり和真を指差し、とんでもないことを言い放った。 「私が、あなたと付き合ってあげる。嬉しいでしょ?」 「いらん。他を当たれ」  聡子の言葉を和真は、即座にぶった切った。  だが聡子は、いきなり断られたことを、照れと取った。 「ふふ。そんなに恥ずかしがらなくてもいいわよぅ。私を振るなんて、斬新な照れ隠しなのね?」 「お前、味噌屋に行って、その頭の中を入れ替えて貰ってこい」  和真は聡子を前に、そう言い放った。 「…味噌屋って。……私をバカだと言いたいの!?」 「おお、流石に気付いたか。お前みたいな馬鹿な女はいらない」  聡子が怒りでふるふると身体を震わせる。  そんな女を見据え、和真は聡子が立ち去るまで動かなかった。 「私程の女は、他にはいないのよ!? 容姿端麗、眉目秀麗。この完璧な身体、あなたが欲しいものは何でも買ってあげるわよ!?」 「お前の様な女、俺の好みじゃない。それに、金にも不自由していない。余計なお世話」 「それに就職だって…」 「俺は跡取りだからな。卒業したら、親父の会社で修行三昧だ」 「それに…」 「女から施しを受けるほど、俺は落ちぶれちゃいない。慈善活動をしたいのなら、そういうところに行け」  聡子は、その後も自分がいかに出来るかを和真に提案するが、  和真はその全てを拒絶した。  やがて聡子の策が尽きる。 「何だ、もう終わりか?ならとっとと帰れ。そして、二度と俺に話しかけるな」 「…っ、後悔しても知らないんだから!!」 「するか、んなもん。お前は好みじゃない。何度も言わせるな」 「っ、覚えてなさいよ!!」  最後は、悪役の捨て台詞のように吐き捨て、  聡子は脱兎のごとくその場からいなくなった。  これが、篠原聡子という女との、最悪なファーストコンタクト。  だが、ここから和真は、何故か何かと聡子に絡まれるようになるのだった。  そして、和真の最初の心の機微に戻る。  聡子に絡まれる度に、和真の野乃花への恋慕が膨れ上がる。  それは、日に日に大きくなり、ついに我慢の限界を迎えてしまった。 「………野乃花が不足してる」  和真は、平日の3日間、その猶予を作り、  実家への里帰りを突如、決行することにした。  帰る前日の夜、柊二に連絡を入れる。 "どうした?和真。これまで音信不通だったのに" 「悪い。講義やバイトで忙しくてさ。でも、明日から3日ほど空いたんだ。だから、そっちに帰ろうと思って」 "そうか、分かった。迎えに行くか?" 「いや、忙しいだろ?勝手に帰るよ。新幹線、中途半端な時間しか取れなくて、着くのは14時頃になるんだ」 "分かった。気をつけて帰ってこい" 「ああ。…ところで、野乃花は相変わらずなのか?」 "そうだな。野乃花ちゃんにも伝えておく" 「いや、俺から連絡するよ。じゃあ、明日」  和真は、そう言うと通話を終えた。
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