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公都巡り
公都に到着し、遠征後の休暇を過ごしてからは仮ではあるが団員として日々忙しく過ごしていた。
遠征が終わったとは言え、武具への付与魔法の追加もあったり、冬は在庫の減りが多いポーション作りに精を出したり、それからお使いに行かせてもらったり。
「ではシェリカさん、こちらは配達です」
「はい、ルカさん!」
今日は街の治療院にポーションや物資を届けに行く。
治療院は公営で、運営は王都ならば国、地方なら各領主である。
つまりこちらの治療院の運営責任者は公爵さまとなる。治療院の運営については、各領主の力量次第だが、少なくとも公爵さまはしっかりと治療院の運営にも力を入れていらっしゃるようだ。
「あれ?今日のお使いはシェリカちゃん?」
やって来てくれたのはアセナさんだ。配達と言っても荷物の重さもあり、それから距離もあるから騎士たちが手伝ってくれる。
アセナさんはポーションやら薬やら、物資が入れられた荷を馬に積めば、早速私も馬に乗せてくれる。
そしてアセナさんが私の後ろに乗り込み出発する。
思えばアセナさんの前に乗せてもらったのは、初めて出会った時以来ね。
「そういや、公都はもう見たかい?」
キョロキョロと公都の様子を見ていれば、後ろのアセナさんから声がかかる。
「いえ、まだゆっくりとは……」
以前配達に行った時も、お仕事だからとそこまでじっくりとは見ていない。
「そう?なら休みの日にでも、隊長と行って来なよ。それくらいならこき使っていいからさ」
「えぇっ!?でも……っ」
「いいの、いいの。あれは相当な戦闘バカだからね。少しは息抜きさせてやらないと。あとこれは団長命令でもあるからね」
だ、団長命令!?確かにレクスは常に忙しそうにしているような気がする。今日も公都周辺の見回りよね。暇さえあれば団員の皆さんの手合わせを付き合っているし。
しかし……私から誘うにしても、迷惑にならないだろうか……?
そう考えあぐねていれば。
「シェリカちゃん、着いたよ」
目的地に付けば、アセナさんがひょいっと馬から降り、私が降りるのを手伝ってくれる。できれば早くひとりで乗り降りできるようになりたいのだが……軍馬は普通の馬よりも大きいから、その分大変だ。
だが手伝ってもらいながらなら、少しは素早く降りられるようになっただろうか。
荷として積んだ物資をほどき、治療院の担当者と中身を確認する。
どうやら割れたものや、足りないものはないようだ。
「それじゃ、ここにサインを」
「はい」
治療院の担当者へ渡す配達証にサインをし、それから治療院の担当者からも受け取ったと言うサインをもらう。これで配達は終わりである。
「手慣れたもんだねぇ」
「はい、何とか……!」
「どんどん頼もしくなって何よりだよ」
アセナさんにぽんぽんと頭を撫でてもらうと、何だか嬉しくなってくる。
「そうだ、次の休みっていつ?」
馬に揺られながら、アセナさんに問われる。
「えっと、ちょうど明日です」
「ふむ……明日ねぇ」
「……えぇ」
明日は何かあるのだろうか……?それにお休み……と言えど、何をするかは決めていない。
「まぁ、任せておいて!」
えぇと……お休みの予定……だろうか?ちょうど何も予定はないし、アセナさんなら安心である。
「わ、分かりましたっ」
そう頷けば、アセナさんが妙に笑顔で微笑んだ。
――――そして、翌朝。
いつものように団員の皆さんと雪掻きを手伝い、屋内に戻って来れば、不意に声をかけられる。
「シェリカ」
「隊長さん?」
「……その、今日は休みだろ?だからさ、公都を案内してやろうか?」
「えと……っ、そうですけど……その、いいんですか?お仕事は……」
「今日は……非番になった」
え……っ!?その言い方だと、急遽そうなったかのような印象だ。
「ふふふっ、毎日毎日出てばっかりでやすまないから団長に叱られたんだよ」
アセナさんがひょっこりと顔を覗かせて補足すると、隊長さんがばつの悪そうな表情を浮かべる。
「だから、いい機会だし、隊長と行って来なよ」
そうアセナさんが提案してくれる。
「そうそう。街に出るなら、あげたお洋服、着ていってね」
「コーデしてあげようか?」
その話にヘレンお姉さんたちまで加わって、『楽しんでおいで』と背中を押してくれる。
「……けど、外套を着ますし、汚してしまったら……っ」
「洗濯すればいいわよ」
「外套を脱ぐこともあるかもしれないし、しっかりとかわいくしていきましょ?」
「そ……それは……っ」
「おい、あんま困らせんなよ、お前ら」
『隊長は黙ってて!!』
「はぁ……」
アセナさんとお姉さんたちの勢いに、レクスがどこか及び腰で、何だか微笑ましくなってしまった。
※※※
――――翌朝。
昨晩はわくわくしてしまって、なかなか寝られなかったものの、今日のことを考えていたらいつの間にか寝入っていた。
そして朝が来て、昨日お姉さんたちと選んだ服に袖を通し、装備を整えた。
「その……。変じゃ……ないでしょうか」
ドキドキしながら、レクスの前に立つ。レクスもまた、今日は鎧や隊服ではなくラフな服装である。
そして私は……中のワンピースは外套で隠れているものの、マフラーや帽子、手袋は騎士団服とは違い色鮮やかなものをとお姉さんたちやアセナさんにお借りしてしまった。
「……いや、大丈夫だ。あいつら……なかなか面倒見もいいからな。たまには……いいんじゃないか?」
「はい、たくさんよくしてもらってます」
みなさんとても優しくて、温かく迎えてくれた。
「だが、今日はワンピースか……」
「あの……」
何だろう?レクスは何か考え込むと、馬に乗り込み、いつものように手を差しのべてくれる。いつものように、レクスの前に座るのだと思っていたのだが……。
「ひゃっ!?」
よ、横抱き!?そしてそのまま前に座らされてしまった。
「あの、これは……っ」
「スカートならこっちの方がいいだろ?」
いや、確かにそうだけど……っ。
その……この体勢だともろにレクスの顔が近いんですけど!?
「さて、早速行くか」
「ちょ……っ」
ドキドキしながらも、レクスが馬を進める。レクスは……その、私のようにドキドキしていないのだろうか……?
不意に顔を上げてみれば、ニヤリと笑みながら見返してくる。
「……っ」
まさか……ドキドキしているの、バレてないわよね……?
いや、そんなバカな。
※※※
馬で移動しつつも、レクスが公都の案内をしてくれる。
「ここら辺は商業区。商家はもちろん、商店、飲食店から旅人用の宿屋まである。公都も一般民家が並ぶ区画や商業区画、鍛冶屋や武器屋のある工業区画なんかで分かれてるんだ」
「そうなのね」
王都だとまず貴族街、平民街で分かれており、平民街がさらに商業区、工業区などに分かれるのだ。ただ、移動にお金がかかるから、商売をしているひとは商業区にそのまま住んだり、働きに出ているひとは長屋と言う安いアパートを借りて生活することの方が多い。
一般家屋の区域があるのは、交通の便が発達しているからこその、公都事情ね。
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