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やっと見つけた?冷酷公爵
突然のメイドの声に急いで駆け付ければ、何だか聞き覚えのある声が響いてくる。何かしら……何かいや~なこの予感は……っ!
そして案の定、怒鳴り散らすクリスティナが目に入る。
まさかとは思ったけど、何でクリスティナがここに来てるの!?
さらには泣きながらレクスに飛び付くセルさま。
「セル!?何があった!」
セルさまは怯えたようにレクスに抱き付いている。あぁ、なんてことを。かわいそうに、目を腫らしている。
「申し訳ございません!クリスティナ王女殿下が押し掛けてきたところに、偶然出くわしてしまって!」
お付きのメイドが慌ててレクスに報告する。
「そんな訪問、聞いてねぇぞ!」
レクスがセルさまの頭を優しく撫でながら、困惑したようにクリスティナを見やる。
「私も寝耳に水のことで……」
戸惑うノエさんに、ほかの侍従たちが駆け付ける。
「申し訳ありません、転移ポータルが突如起動したと思えば、突然お越しになって……。こちらもノエさんたちに報せようとしたのですが、王女殿下が無理矢理公爵さまを探しに来たと……その、暴れられまして…………」
クリスティナらしいと言えばらしいわよね。しかし、それって緊急用の転移ポータルよね……?災害時などに使うためのものだ。動力に魔力や魔石を使う以上、ただという分けにもいかないから、使用は最低限にとどめられているはずだが。
困惑していれば、クリスティナの視線が私を捉える。
そうしたら、一瞬唖然としたクリスティナが突如としてニコリと笑みを浮かべる。いや、何よそれ、一度も私に向けなかったその貼り付けたような笑み。不気味すぎるわよ……!
「あぁ……っ、わたくし、大変心配しましたわお姉さま!」
はいいいいぃっ!?白々しいにもほどがあるでしょう!?
それに……『お姉さま』だなんて一度も呼ばれたことないけど!?殺そうとした……と言うか死んだことにしたくせに何言ってんの!?
「お姉さまが突如消息を絶ったと聞いて、わたくし寝ても入られず、こうして直々に北部まで参りましたの!」
いやいや、私が北部で死んだからって言って、侍女に慰謝料ふんだくらせようとした口が何を言う……!しかも涙も出てないのに泣き真似などして……本当にクリスティナは。
「は……?姉?」
そしてレクスの視線が私に突き刺さる。
「その……えっと……」
ノエさんとニキアス団長にはもうバレているけど……レクスにも話した方が……いいわよね?
しかし……その時だった。
「あら……あなたなかなかの顔じゃない」
へ……っ!?く、クリスティナがレクスの顔を見るなり顔を輝かせる。さっきまでの泣き真似はどこ行ったのよ!いや、涙などまるで出ていなかったが。
ちょ……面食いなのは知ってたけど、この状況でレクスに言い寄る気……っ!?確かにレクスは……整った顔立ちをしているけれど。
何かしら……ものすっごくもやもやするこの感じは。
――――しかしクリスティナがキラキラとした笑みを向けるのに対し、レクスの反応は冷めていた。
「あ゛……?何だお前」
ひぃっ。いくらクリスティナ相手だからってレクスはレクスで氷点下の表情でメンチ切ってる!しかし、セルさまが脅えている以上は公爵さまの臣下としては引き下がれないわよね。しかもクリスティナが近付いてきたことで、セルさまが恐がってレクスの後ろに回り込み、引っ付いてしまった。
「わたくしは第2王女クリスティナよ。あなたがアイスクォーツ公爵さまの元へ案内してくれるのなら、今の無礼、特別に許してあげてもいいわ!」
いや、一体何を許すのよ……。
でも、やっぱりここは公爵に出てきてもらった方がいいのかしら。以前もクリスティナの侍女を追い返してくださった。たとえ王女であろうと、国の重臣である公爵を相手にするのなら、クリスティナの思い通りにはいかないはずだ。
しかし、その時だった。
レクスがいつもとは違った重みのある声で口を開く。
「俺がヴァシリオス・アイスクォーツ公爵だ」
え……?
その言葉に、完全に拍子が抜けた気分だ。いや……ちょっと待って……嘘でしょう!?
しかし、決して冗談で名乗っていい名前でもない。この場にいるノエさんやニキアス団長も否定しない。
セルさまがこんなにレクスに懐いているのも……兄弟だからだ。思えば公爵さまがセルさまを溺愛していると言う話は散々聞いたじゃないか。
いや、でも待って。じゃぁレクスって誰!?そこが最大の謎なのだけど……っ!?何で公爵さまの名前はヴァシリオスさまなのに、レクスって名乗っているのよ……!
公爵として、一歩も引かない攻勢を見せるレクスに対し、クリスティナもさすがに怯むと思ったのだが。
――――クリスティナもさすがの図太さを見せる。そうよね……そうじゃなきゃ実の兄の王太子殿下に冷たく窘められても構わずお兄さまお兄さま言ってないわよ。
「まぁ……っ!あなたが公爵さまでしたの……?あぁ、お会いしたかったですわ、ヴァシリオスさまっ!わたくし、あなたなら嫁いであげてもよろしくてよ?」
はい――――っ!?
あれだけ嫌がっていたのに、レクスの顔を見た途端、簡単に鞍替えするだなんて、呆れてものも言えない。
そもそも王命による婚姻を嫌がって、私を身代りに嫁がせた挙げ句殺したことにしてまで破談にしようとしたの、あなたじゃない!?
どうせその裏には王妃がいたのでしょうけど、その企みに何の躊躇いもなく乗るのもクリスティナである。んもぅ……王太子殿下もこう言う心境だったのかしらね……?
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