やっと見つけた?冷酷公爵

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――――と言うか、レクスが公爵さま……と言うことは、あの時レクスが言っていた返品の話もクリスティナのことだったのだろう。 そしてクリスティナの謎の自信に満ちた言葉に、レクスは怪訝そうな表情を浮かべると静かに息を吐き、そして冷たく告げる。 「知ったことか。貴様などこちらから願い下げだ!これ以上北部の平穏を脅かすのなら、容赦はしない。帰るがいい」 容赦のない冷たい言葉は、さすがの私も背筋が凍るかと思った。いつものレクスとまるで違う。 「な……ぁ……っ」 自分の容姿に絶対の自信のあるクリスティナにとっても、思っても見なかった言葉だったのだろう。 「また転移ポータルでも使われたら動力の無駄だ。せめて門の外まで送って差し上げろ」 つまり、自力で帰れと。まぁ、クリスティナのために転移ポータルを再び動かすのは私も反対である。貴重な魔石や、魔力を大量に使う必要などない。 「ちょ……何を言ってるの……っ!?わたくしが直々に来て差し上げたのに、不敬よ!」 クリスティナもさすがにその意味を悟ったのか慌て出す。だが来て欲しいと招いた覚えもない。侍女が追い返された時点で、クリスティナは完全に招かれざる客なのだ。 それにここは北部。クリスティナをちやほやしてくれる親衛隊もいない。周りは……クリスティナに明らかな敵意を向けている。それはクリスティナにとっても、想像もしていなかったことだろう。 「さて、我らが公爵さまのご命令だ」 「大人しくしてもらおうか」 そしてクリスティナの身体を拘束したのは、駆け付けて来たアセナさんたち、女性の騎士たちだ。 「ちょ……っ、放しなさいよ!私の身体に許可なく触れるなんて不敬よ!」 「問題ないよ、俺が責任を持って見届けるからね」 そうニコニコしながら告げたのは、颯爽と現れた副団長さんだ。まぁ、そうよね……。副団長さんなら家柄的にも、王家……いやたとえ王妃が文句を言って来ても抑え込めるもの。エステレラ辺境伯家は、立地的にそう言う土地なのだから。 「それならば、遠慮なく」 「あぁ、副団長もたまには役に立つ」 いやいや、たまにはって……。しかし副団長さんの言葉に、アセナさんたち女性騎士たちは容赦なくクリスティナを押さえつけながら、この場から退場させに動く。 「ちょっと……、放してよ……!そうだあなた!」 「……ん?俺?」 クリスティナが副団長さんに声を掛ける。まさか……副団長さんにも言い寄らないわよね!? 「わたくしを助けてくださればそれなりの地位を約束しますわ!あなたもわたくしのような美しい王女に仕えられるのよ?いい話ではなくて?」 はい――――っ!?まさか本当に言い寄るだなんて!しかもこの状況で、なりふり構わなくなってるのかしら……っ!? ……その前にクリスティナ。副団長さんの言葉を聞いてた?あなたを拘束して外に放り出しても、副団長さんの言葉があれば不敬罪には問われない。アイスクォーツ公爵家の騎士として正当な行為として認められる。その意味を、考えてないのかしら。副団長さんはそう言う立場にいるのだと。その出自を知らなくとも、王家に物申せるお家柄だと言うことを……。 しかしそれを聞いたアセナさんたち女性騎士が、何だか残念なものを見るような目でクリスティナを見る。 「うん、さすがにうちの天使を恐がらせた憎き相手だとしてもね……副団長だけはダメ」 天使とは間違いなくセルくんのことなのだろうが。 副団長さんに言い寄るな、ではなく『ダメ』なのだ。いや、しかし何故……? 「いや、むしろ面白いかもよ?副団長、どう?もらう?」 アセナさんと共にクリスティナを拘束していた女性騎士が告げる。いや、さすがに副団長さんだとしても、クリスティナは扱いこなせないのでは……っ!? 「いや、さすがの俺でも遠慮させてもらおっかなー」 副団長さんはあっさり却下した。むしろ……本気でドン引いてない!?いや、分かるけども……! 「副団長でも匙を投げるとか……アンタ……かわいそうな子だね」 女性騎士たちから一斉に憐憫の目を向けられるクリスティナ。 「な、何よアンタたち!わたくしへの不敬罪で訴えてやるわよ!?」 「副団長がいるから問題ない」 「ねっ!」 そう女性騎士たちが告げれば、副団長さんが『もっちろ~ん』といつものにこにこ笑みを浮かべる。 「さて、とっとと摘まみ出せ」 レクスが告げれば、今度こそアセナさんたちがクリスティナを引きずり出して行く。 「ちょっと待って!本当に外へ!?わたくし、薄着なのよ!?こんな状態で外にだなんてだされたら、凍死してしまうじゃない……っ!」 クリスティナが最後の足掻きを見せる。 「面白いことを言うねぇ」 副団長さんが嗤うと……、フッと口元の笑みが消え失せる。 「君がやったことだろう?」 「は……?」 クリスティナが瞠目しながら副団長さんを見上げる。ちょ……薄着で馬車に突っ込んで運ばせたのアンタでしょ。あんな状態で北部に捨てられたら、そうなるって分かるでしょ……? 「お、お姉さま助けて!妹でしょう!?私を助けて……っ!お願いよぉっ!!」 そしてクリスティナが叫ぶ。その目尻に浮かぶ涙は……今度こそは本物らしい。 「遠慮します……!」 助ける義理もないし! 「ちょ……あり得ない!シェリカのくせに……!シェリカのくせにいいいぃっ!!」 完全に化けの皮が剥がれたクリスティナは容赦なく連行されていった。 「……さて。俺はセルを部屋に案内してくる」 クリスティナが退場し、レクスが小さく口を開く。その表情は弟を見守る優しい表情である。 本当に、レクスが公爵さま。 「あの、私も……」 つい、声をかけてしまった。 「いや……」 レクスは首を振ろうとしたのだが、セルさまが私の服をぴっぴっと引っ張っている。 私にも来てほしいの……? 「セル……気に入ったのか?……珍しいな」 「……っ!」 そうレクスが呟けば、セルさまが笑顔で頷く。 「……行くか」 「……う、うん」 どうしてか微妙な空気のまま、私たちはセルさまを部屋まで送ることとなった。
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