2人の時間

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2人の時間

セルさまを部屋まで送り届ければ、嬉しそうに手を振るセルさまに手を振り返す。 「……戻るか」 「う……うん」 あの、応接間よね。 レクスと共に応接間に戻れば、その入り口にノエさんが待っていた。 「では、2人でちゃんと話をしてくださいね」 「の……ノエ、その」 「いいですね……?」 「……分かった」 ……ひぇ。ノエさんからの笑顔の圧。そして、レクスが屈服する。 「……まぁ、その。シェリカも入れ」 「……うん」 そして、緊張しながら応接間に入り、ソファーに腰掛ければ、流れる沈黙。 「その……っ」 「シェリ……っ」 声が重なりあい、さらに微妙な空気になってしまう。 「その……お前が、第1王女……だったんだな」 「……うん」 おんなじ名前とは言え、吹雪の中行き倒れ寸前で騎士団と行動を共にしてたのが王女本人だなんて思わないわよね。そして……まさかの公爵さま自ら吹雪の中で私を拾って、ずっと行動を共にしていたなんて……っ。 「レクスも……こ、公爵さま、なのよね」 「……成り行きだ」 どんな成り行きがあったら……っ!?……それに。 「隊長さんじゃなかったの……?」 「それは……昔出自を隠して入団してた頃に……隊長職にあったから、みんなその名残で呼んでくるんだ」 それでみなさん『隊長』と……いや、レクスも正体を隠して所属してたの!? 公爵家の血筋のレクスがどうして……。 「何で出自を隠す必要があったの……?」 「俺は妾の子だったから、正体を知られると本妻……先代の公爵夫人に殺されるかも知れなかった。だから名前を変えて、身分を隠して暮らしてきた。騎士団に所属したのは、先代が騎士団を北部に放置していて王都に籠りきっていたから……身を隠すには便利だったからだ。まぁ、ニキアスとノエだけは、さすがに俺の正体を知っていたが」 まさに木を隠すには森の中ってことか。 そしてさすがにニキアス団長がそれを知らないと、正式な騎士団員として隊長職にはできないものね。 「だけどレクスが公爵を継いだのは……」 先代の公爵夫人に命を狙われていたはずなのに、どうして……? 「先代夫妻が死んだ時に……俺が継いだ。セルにこの役目はまだ早すぎる。認知だけは……元々の戸籍の方でされていたからな」 確かにセルくんに幼くして公爵位を継がせるのは酷だ。それに認知がされていたのなら、レクスはアイスクォーツ公爵家の嫡男と見なされる。だからこそ、先代夫人はレクスを殺そうとしたのだ。 「ねぇ、もしかしてヴァシリオスってのは……」 「元の戸籍上の名前だ。あれは先代が伝統に則り付けた名だから、好きじゃない。でも長らく産みの母親が付けたレクスの名で生きてきたから、ヴァシリオスの名は慣れない」 クリスティナにヴァシリオスと呼ばれた時に、怪訝な表情を見せたのもそのせいだったのだろうか。 「じゃぁ今まで通り……」 「レクスでいい」 「うん、レクス」 私も、この方が落ち着く。 「それで……」 「うん」 「お前が嫁ぐ相手ってのは……雪原の中に置き去りにするような嫁ぎ先がどんなやつかと思えば……嫁ぐ相手がまさかの俺か」 レクスががっくりと項垂れる。 「その、ごめんなさい。レクスが公爵さまだとは知らなかったから……」 「いや、俺の方こそ」 「そ……その……騙すようなことになってしまって……」 「そ……それはお互いさまだろう?」 「う……うん……」 「お前が……その、俺の妻になるのか」 「そ、そうなる……けど……」 あれ……?そう言えば公爵さまって……。 「公爵さま……レクスには内縁の奥さまがいる……のよね。お、王命だから仕方がないけれど……私は 騎士団の治療師としてこのまま働かせてもらえれば……構わないから」 その言葉を紡ぐのに、どこかチクリと胸がいたむのは、気のせいか。 「……いや、待て!何でそうなる……!それに俺は未婚だ。何だ内縁の奥さまって……!」 しかしレクスが慌てたように立ち上がる。 「でも……愛妻料理を楽しみにしているって聞いたし……!あれ……でもレクスが食べてたのは騎士舎のご飯よね……。まさか騎士団に、内縁の奥さまが……!?」 アセナさんはもう結婚されているし、お姉さんたちの誰かってこと!? 「……その、俺にはそんな関係のやつぁいねぇよ」 「……そうなの……?」 「そうだよ」 では愛妻料理とは一体何のことだったのだろうか……?冗談……それとも北部独特の言い回しとかジョークの一種かしらね……? でも本当に……レクスが冷酷公爵なのよね。ん……?冷酷公爵……?レクスはどちらかと言うと……口はちょっと悪いが冷酷には程遠い印象を受けるのだ。だとしたらあの噂は……一体どう言うこと……? しかし考え込んでいれば、不意にレクスの顔がすぐ近くにあることに気が付く。 「シェリカ」 「レクス……?」 「俺は妻に迎えるのなら、シェリカがいい」 「……っ」 「シェリカはどうだ」 「それは……王命だから」 断れるものではない。 「シェリカの気持ちを聞いているんだ。嫌なら俺が是が非でも何とかしてやる」 「む……無理よ」 いくら北部の猛将だからって、相手は陛下よ……? 「それに……私も」 政略結婚に恋心なんて……王女として生まれ育った身だ。許されるはずがないと分かっていたけれど。 「レクスのお嫁さんになりたいって……思うわ」 「……っ」 レクスの顔が赤い。でもそれはきっと私もよね……? 「嬉しい」 レクスが笑う。 そして2人の気持ちがひとつになるように、唇が重なりあった。
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