とある事件

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「申し訳ありません、公爵さま!私が庭で遊ぶのを許可したから……っ」 そしてロザリーが素早くレクスに頭を下げていた。 「お前のせいじゃない。むしろ、よく守ろうとしてくれた。お前のことは信頼している。これからもだ」 「はい……っ、公爵さま!」 レクスがロザリーにそう優しく声をかけると、彼女も涙を呑んで頷く。 「それに……悪いのは俺のいるこの城でセルを襲ったコイツだ!」 レクスはニキアス団長が押さえ付けている男の前に剣を突き立てる。 「答えろ。何故セルを襲った……!」 「……っ。シェリカ王女には生きていてもらっては困るからですよ……」 クツクツと暗殺者の男は嗤う。 「例のクリスティナ王女と王妃ってところか」 ニキアス団長がそう問うと、暗殺者は不敵な笑みを浮かべながら、やがて口を閉ざした。 「だからって……セルを狙うだなんて許せねぇ……っ」 レクスが怒りを滲ませる。 「これの処理は任せておけ」 ニキアス団長と、何事かと駆け付けてきた騎士たちが、動かなくなった暗殺者の処理に移る。 「あぁ……」 そしてレクスは狙われ、震えているセルくんを優しく抱き締める。 「恐かったな、セル。もう大丈夫だ」 「に……さま」 「ひとまず、部屋まで運ぶ。準備を」 「はい!」 ロザリーが頷くと、レクスがセルくんを抱き上げ、セルくんを寝室まで運ぶ。 「もしものことがあったらいけない。騎士にこの部屋を守らせる」 レクスが言うと、直ぐに騎士たちが駆け付けてくる。私も立ち会っていることに彼らは驚いたようだが、セルくんが狙われた以上、細かいことは気にしていられない。彼らは早速部屋の守りを勤めてくれた。 「とにかく……ニキアスにはアレの処理を任せたから……ノエとアレスも呼ぼう。シェリカは俺と来てくれるか。詳しい状況を聞きたい」 「分かったわ」 私たちはセルくんをロザリーや騎士たちに任せ、早速ノエさんの執務室に集まり、副団長さんも合流した。 「シェリカには……まだ詳しく言ってなかったが……」 「レクス……?」 「セルの声のことだ。セルは……昔先代公爵夫婦に厳しい教育を受けてな。あれが相当な心の傷になってる。あの先代夫婦から助け出したとはいえ、そん時の恐怖のせいで今でも……俺以外とはなかなかしゃべれなくてな」 「先代の、公爵夫婦……?」 それって、レクスの実の父親とセルくんの母親ってことよね。 「そうだ。先代のアイスクォーツ公爵夫妻は北部の地を恐がり、王都住まいだった。それで、自分たちはビビり散らかしてんのに、セルには跡を継がせて、強引に北部の防衛の任を丸投げしようとして、病弱なセルに無理矢理毎日厳しく武術やらしつけたらしい」 「そんな……っ、セルくんに……酷すぎるわ」 自分たちは安全な王都に籠りきりだったと言うのに、セルくんにだけ……。 そしてそこから助けてくれたレクスとだけはしゃべれるのか。 「そうだ……っ。ただでさえあいつらのせいで恐い思いしてんのに、また恐い思いをさせるだなんて……。ぜってぇ許せない」 レクスが力強く告げる。 「そんで?隊長はどうするの?」 副団長さんはその答えはもちろん分かっているのだろうが、レクスに問う。 「決まってる。こうなりゃ、王城に直に乗り込んでやる!」 さすがにレクスも怒り心頭であり、それは私たちもみんな同じであった。
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