499人が本棚に入れています
本棚に追加
/59ページ
王都へ
――――セルくんが狙われた。その一大事に、領主城では重々しい空気が流れていた。
今はセルくんも落ち着いて眠っている。騎士団の警備もいつも以上に厳重にしているけれど。
さすがに今回のように、子どもを巻き込むのは酷すぎる。
書斎では、レクスと私、ノエさん、アレス副団長が揃っている。そして処理を終えたニキアス団長も合流した。
「もう堪忍ならねぇだろっ!よくもセルを……っ。だからこの俺が直々に王城に怒鳴りこんでやる!」
レクスが怒りを滲ませる。
ぶっちゃけ言ってあの古巣は私にとっては居心地の良い場所ではないし、進んで行きたい場所でもないのだが……さすがに今回は看過できない。
「うん。セルくんまで狙うだなんて、本当に許せないもの」
「そうですね……いつもならもっと慎重にとたしなめるところですが、さすがに今回は私も賛成します。いくら王族と言えど、セルさまに手を出しておいて、このまま野放しにするなど言語道断です」
ノエさんも怒りを滲ませている。
「むしろ、王族だからこそだよねぇ。許されることと許されないことの区別もつかないのは不味いよねぇ。それに……せっかくの公爵位なんだから、ここぞと言う時には遠慮しないで使わないとねぇ。それにはうちのお兄さまも賛成してくれると思うよ」
続いて副団長さんが告げる。
その、お兄さまって辺境伯さまのことよね……?でも……辺境伯さまなら賛成してくれるのは分かるかも。
以前、クリスティナが辺境伯さまもいる前で我が儘や横暴を働いたことがある。だけどそれでもいつも毅然として私を庇ってくださったのは、辺境伯さまだもの。
――――強い力は、大切なひとを守るために使うもの。
私が王妃やクリスティナからの報復が辺境伯さまに向くのではと心配した時も、辺境伯さまはそう仰ったから。
そう考えれば、アレス副団長が辺境伯さまの弟アレクシス・エステレラさまだと言うのは、とてもしっくりくる。
性格は全く違うような気がするけど、その精神はしっかりと弟の副団長さんにも受け継がれているのだ。
「よし、なら遠慮なく乗り込んでやろうか!」
レクスが副団長さんの言葉に頷けば、副団長さんが『そうそうその意気』と返す。
「あの……レクス!行くなら私も連れていって!」
私もセルくんやレクスのために、できることをしたいら……!このまま安全な場所で待つだなんて、多分我慢できない。
私に色んな景色を見せてくれた辺境伯さまのお陰かしら……。
あの方から教えてもらった精神はアレス副団長だけじゃなくて、多分私の中にも……。
「シェリカも……っ。いいのか……?」
「もちろん。それに王城の中なら詳しいから!クリスティナと王妃にガツンと言うわよ!」
「そうだな!いっちょ言ってやるか!」
レクスも頷いてくれる。
ただ、問題は陛下である。
「でも……懸念があるとすれば、陛下ね。陛下がどう出るか……その見極めが肝心よ」
あの腹の底で何を考えているか分からない陛下がどう出るか。
しかし決して王妃たちの味方ではないことは分かる。あの方は私に対してもそこまで入れ込みはしないけど……それは王妃やクリスティナに対してもだ。
だが、クリスティナや王妃がこんなにも大胆に動いている上に、陛下の決めた婚約をぐちゃぐちゃにしてしまった。
そもそもどうして陛下はアイスクォーツ公爵とクリスティナの縁談を命じたのか……。
やはり分からない。
確かに北部は国の要所だが、そこにあの問題児のクリスティナを持ってくることが何かしっくりこいのだ。
レクスは公爵だ。王族に次ぐ権力を持つ高位貴族。どこまで出られるか。
「王太子殿下なら、頼ってもいいと思うけど……」
あの方はまともだし、クリスティナの横暴にも反論できるし、行きすぎたことをすれば怒ってもくれるだろう。
訴えるとしたら王太子殿下。しかし王妃はどうする。
相手が王太子殿下の実の母親とは言え王妃に肩入れしてるとも思えないけど。
「陛下は何を考えているのかしら……」
クリスティナたちの味方をすることはないけれど、しかし手を出してこないのには、何かがある。
「陛下か……まぁ、それなら考えてある」
レクスは魔法伝令を書きしたためると、すかさずそれを飛ばす。
「あの、どこに送ったの?」
「取って置きの救援を手配した。もしもの時のために、準備はしてあるからな。陛下だけじゃなく、あいつらも絶対に悔しがる」
いやいや、誰だろう、それは……?しかも準備とか、いつの間にしていたのだろうか。
陛下対策に呼ぶとしても、陛下を動かせる人物なんて、ごくごく限られていると思うのだけど。それにあいつらというのはクリスティナと王妃たちのことよね……?彼女たちまで悔しがるとは……一体どんな救援なのだろう?
「んじゃぁ、俺たちも出るぞ!もたもたして逃げられても仕方がねぇ!」
レクスが剣を腰に佩いて立ち上がる。
「う……、うんっ!」
「あと、アレスもついてこい」
「了解~!」
「んで、こっちはニキアスとノエに任せる。何かあれば知らせて来い」
「城に乗り込む以上の騒動など早々には起こらんだろうが……こちらは任せろ。行って来い」
「分かった」
こうしてみるとニキアス団長とレクスって、部下と上司なはずなのに、何だかニキアス団長が親代わりみたいね。
――――いや……レクスの生い立ちを考えたら、それもあながち間違いではないのかもしれないが。
「シェリカ?どうした」
「……う、ううんっ!」
しゅ、集中しなきゃ……!今は王城に行く時。勝負の時なんだから……!
そうして私はレクス、副団長さんと共に、転移ポータルを利用し、王城へと転移した。
最初のコメントを投稿しよう!